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『あれ? お兄どうかしたー? おーい! 切れちゃったかなー? まーいいかっ、朝までにお部屋さがしとくねーじゃーねー!』
葵が通話を終了したことにも気づかないぐらいに鷲尾は頭を抱えていた。
連絡が取れる仕事仲間に『にじっぴの中の人ってだれ?』とメッセージを送ってみたのだ。
数秒も待たずに「知らん」「わかんない」「さあ?」「そんなことより貸した500円返して」と予想通りの返事がならぶ。
やはりそうだ。誰も知らない。
半人前なりにもディレクターである鷲尾が知らないのだから、他のスタッフも知らなくて当然だ。
では、一條さんはどうか──。
連絡したい。けれど、気まずい。
(あーあーあー、オレなんで告白なんてしちまったんだろー……)
万年床の上で、寝るでもなく、ナニするわけでもなく、ごろごろうじうじと考え続けた。
一條さんはいま、どんな夜を過ごしているだろうか。
今日の噛み倒しを悔やんで、鏡の前で変顔しながら口周りをストレッチしているかもしれない。
想像しただけで最高にかわいい。
だが、変顔と変顔のあいだに鷲尾のことを思い出し、こころの痛みをこらえて舌を噛んでいるかもしれない。
「一條さん……オレのせいで、すみません……」
まあ、すべて妄想なのだが──。
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