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「最後の噛み倒しはオレの時間配分ミスで慌てさせたせいっすよね? クイズの答えを先に読んだのは一條さんのミスっすけど……」
啓蟄──。
あのときの耳の完熟っぷりを思い出し、思わず吹き出し笑いそうになった。
だが、一條さんが両手で頭を抱えて前のめりに沈んだので、あわてて真顔になる。
「まーよくあるミスっすよね!」
「『ケイチツって読んじゃダメだ』って意識しすぎて、ついやってしまったんだ……」
「超あるあるっすよ。気にしたら負けっ!」
「ありがとう。鷲尾くんの前向きっぷりにはホント救われるよ」
力なく笑った一條さんは「これ、まだ熱いけど」と、ホカホカの缶コーヒーを差し出した。
「「今日もおつかれさまでした」」
声がそろった。くすぐったい嬉しさを互いに噛み締めながら、小さく乾杯する。
すでに苦々しい表情の一條さんは微糖ブラックコーヒーを一気に飲み干し、がっくりと肩を落とした。
「どうして上手くいかないんだろ……嫌になるよ……」
線の細い彼は、弱音をこぼしただけで陰鬱めいた美しさがにじみでる。
放送中はどんなに強い風を受けてもぴっしりと七三にまとまっている髪も四方八方に乱れ始め、ますます美しい。
鷲尾は密かに念じる。
(ついでに服装も乱れろっ……!)
ぎっちり締めたネクタイを少しでいいからゆるめてくれないか。
ゆるめたついでにシャツを脱いで、汗ばむ素肌をあらわにしてくれないか──。
少々疲れがある脳内は、ついついエロい方向にバグってしまう。
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