第2話 失恋と立ち退きと中の人

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 かぐわしい苦甘黒汁を一飲みし、眉間にシワを寄せてみる。  一條さんの真似のつもり。  とても難しいことを考えているフリ。 (一條さん……)  カフェインがぐるぐるごろごろと音を立てながら下っていく腹の底で、思う。  一條さんはバカなんかじゃない。  気象予報士は日本全国でたった1万人しか存在していない。  その試験は合格率5パーセントの超難関。  メディアの気象キャスターとして採用されるのは一握りどころか、一つまみレベルだろう。  二重三重の狭き門を突破して彼はここにいるのだ。  自信を持ってほしい。  『その頑張りが報われますように』という意味を込めて、頑張れと言いたい。  頑張るための元気をあげたい。  そして何より、一條さんの近くにはとても優しくて頼りがいがあって──ちょっっぴり背が低くて、ガサツなことだけが欠点の──最高の男前敏腕ディレクターがいるのだ。  どんなに予報を噛み倒して血を吐こうとも、失敗で心が砕けようとも、鷲尾は絶対的に彼の味方なのだ。  困ったら頼ればいい。頼られたい。いい人だって思われたい。思わせたい。    
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