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焦る心とは裏腹に、ずっと感じていた予感の正体を知った気がして、心の中で何かが腑に落ちる。
「先輩?」
怪訝そうな呼びかけにハッとして、慌てて画面に向き直った。映像の中では、男優が喘ぎながら後ろをかき回されているところだった。
さっきはあれほど躊躇っていたのに、一砂は自身の昂りを取り出すと夢中でしごき始める。
室内には、自分の荒い息と、男優の声だけが響いていて頭がおかしくなりそうだった。
「先輩って、シコりながら喘いじゃうんだ」
ちらりと横目で見ると、いつもは凛と澄ましたような表情を、面白そうに歪めている。
自分の姿を、渚に見られていると思うだけですぐに達してしまいそうだった。画面に再び視線を戻す。激しく責められている男優を見ながら、一砂の腹の奥は疼いていた。
渚の感じていた顔を、あの硬く膨張した熱を思い出す。
やめとけと、頭の中で警告がなっているのに、想像してしまった。
この画面の中の、女の子の指が、もし渚のものだったなら。
もし、責められているのがこの男優ではなく、自分だったなら。
想像するのを、止められない。
男優の声と、自分の声とが重なる。男が感じた声を出すたびに、自分の腹の奥が圧迫されたような錯覚を起こす。そこに指が差し込まれるたび、渚のそれで貫かれているかのように腰が揺れる。
「あっ・・・・・・は、ぁ、あ」
「ちょっ・・・先輩、声抑えて!親に聞こえっから」
渚が慌てて一砂の口をふさいだ。大きくしなやかな手の平が、一砂の唇を圧迫する。一砂の後頭部を、もう片方の手が支えるように添えられた。
そのまま一砂は限界を迎えた。
脈打つ熱が、一砂の手のひらに欲望を放ち続けている。しばらくたってもおさまらず、やがて、指の隙間から白い液体があふれ出した。
頭が冷静になっていくにつれ、自己嫌悪となんとも言えない気まずさが、心の内側に広がっていく。
ようやく落ち着いた頃には、両手は真っ白に汚れていた。
「・・・どんだけ溜まってたんすか」
呆れたように言いながら、渚はウエットティッシュを渡してくれる。一砂は途方にくれた。
・・・嘘だろ、俺。男でイくとか
「そんなによかったんすね、これ。・・・てか、そんなに後ろに興味あったんすね」
そんなんじゃ女の子とできなくなりますよ、と渚は笑った。曖昧に返事をし、一砂は立ち上がる。
「俺、帰るわ」
「え?飯は?」
「いいや。なんかちょっと、疲れちゃって」
渚がまたふっと笑う。
「疲れたって・・・盛り上がりすぎでしょ」
揃って部屋を出ると、一階で晩御飯の支度をしていた渚の母親が声をかけてきた。
「あら、帰っちゃうの?」
「すみません。急に」
「気にしないで!あ、・・・ちょっと待ってて」
キッチンに戻っていったかと思うと、タッパーの入った紙袋を手に戻ってきた。
「これ。せっかくだから食べてみて」
「え、いいんですか?・・・ありがとうございます」
ニッコリと微笑んだ顔を見ていると、なんだか申し訳ない気持ちが膨れ上がってきた。
それでも、今の感情が去るまでは、渚とまともに話せる気がしない。
「・・・お邪魔しました」
二人に見送られながら、一砂は逃げるような気持ちで自宅へと戻っていった。
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