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戸惑う一砂に、
『ちょっと今からお前ん家行っていい?』
「え、ああ別にいいけど」
しばらくしてやってきた拓の手には、BL本の入った紙袋が携えられていた。
「ちょっとこれ読んでみて」
「は?嫌だよ。つうかなんで急に」
「頼むから!何も言わずに読んでくれ」
まっすぐな瞳で懇願する拓に折れ、仕方なく本を手にしてから一時間後、気づくと二人は涙を流しながらページをめくっていた。
「まじかよ・・・つらすぎんだろ男同士って。こいつらの仲引き裂いてんじゃねえよ」
「な?やばいだろBLって」
拓はBL本をネットで売るため、本の状態を確認しようとパラパラページをめくっていたところ、思いのほか内容が面白くてハマってしまったらしい。
「深いわ。高校生の俺にはディープすぎる。今まで自分がいかに薄っぺらい漫画を読んできたか気づいたぜ」
「そう、深いんだよ」
そう言って拓は、リュックからバスタオルと、ドラッグストアで買ってきたばかりのボディーソープ、そしてコンドームの箱を取り出した。
その様子を見つめながら、一砂は無言で拓に問う。拓は好奇心いっぱいの目をしてニンマリ笑った。
「じゃ。ちょっと風呂場、借りるな」
「待て待て待て」
慌てて拓の足首を掴んだ。前につんのめりそうになった拓が不満げに口をすぼめる。
「んだよ」
「いやおかしいって。なんで風呂?この流れで」
「見りゃわかんだろ。体洗いたいんだよ」
「てめえ人ん家のフロでどこ洗う気だ!」
一砂が叫ぶと、
「しょうがねえだろ。俺ん家は今、親いんだよ。お前ん家なら両親ともに社畜やってるから休日出勤、見られる心配ないだろ?」
「社畜を職業みてえに言うんじゃねえ!」
誇らしげに親指を立てる拓に腹が立った。
「俺がお前ん家に来た目的は二つだ。一つは、お前にもBLの良さを知ってもらうこと」
「二つ目は?」
「お前にケツをいじってもらうこと」
「断る」
「なんで?!」
「当たり前だろ!なんでOKされると思ってんだ」
駄々っ子のようにごねる拓。
「頼むよ!これ読んでたら、後ろってそんなに気持ちいのって興味湧かない?」
「湧かねえよ。だいたい前で童貞も捨ててねえ奴が何言ってんだ」
「後ろでイきたいんだよ!いじってくれないなら自分でするから、せめてフロだけ貸して」
再び風呂場へと向かおうとする拓を必死で止める。
「やめとけ!女のをほぐしたこともないお前が、自分のをほぐせるわけねえだろ。ケツを一つダメにして終わるだけだ。悲劇しか生まねえ」
しかし拓はめげなかった。
「だったらお前がほぐしてくれよ」
「俺だって童貞なんだよ。ケツなんかほぐせるか」
「大丈夫だって。お前昔ピアノ習ってたし」
意味のわからない文句で説得しにかかる拓を、一砂はどう言い聞かせようか思考を巡らせた。けれどどう考えても、このバカを止める方法なんて思いつかなかった。
拓がダメ押しのように、潤んだ目を向ける。
「頼むって。な?お前がほぐしてくれるなら俺、シャワーじゃなくてウォシュレット使うから」
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