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これは、深くつっこんで聞いてもいいものなのか。
「あー・・・まあかったるいよな」
あたりさわりのない一砂の言葉に、渚は自虐的に笑った。
「先輩は学校、好きっすか」
「んー普通?勉強はだるいけど、友達には会えるし。騒いでんのは楽しい」
「へえ。騒げるほど友達いんだ」
「・・・お前、ちょいちょい俺をなめてない?」
渚の肩を軽くたたくと、一砂の拳をしなやかな筋肉が受け止めた。無気力そうな見た目と違って、案外鍛えているらしい。
首をかしげるような動作で渚はこちらを向いた。前髪のすき間からあの独特の眼差しが覗く。白い歯を見せ、いたずらっぽい声で謝ってきた。
「・・・つうか一砂先輩ってまじで、年上なのにそんな感じしないっすよね」
「どうせ陰キャだからな。すべてに遠慮しながらひっそりと生きてんだよ」
正面の少し奥の方に、目指すべき駅が少しずつ見えてくる。ゆったりと時間が流れているようで、15分はいつもあっという間だった。
「こんなに気つかわねーで話せる相手初めてっすよ。俺も鞍馬南にすればよかったかなあ。先輩いるし。あ、でも偏差値低かったっけ」
さらっと失礼すぎる。あまりにさらりとしすぎていて、思わずふんふんと流してしまいそうになった。
・・・気をつかわないというか、ハナからつかう気がなくね?
憎悪を込めて睨みつけたが、渚は本気で後悔してるような顔で前を向いているだけだった。
「お前、気はつかわなくていいからせめて俺のメンタルを傷つけんなよ。・・・まあでも、佐和ヶ丘ってそんな微妙なの?なんで」
一砂が問うと、何か迷っているようにじっとこちらを見つめてきた。変に目力があるので、見られているだけで緊張する。
・・・なんなんだ?ていうか、頼むから急に黙んなよ怖い
やがて渚は、ふっと肩の力が抜けたように、どこか投げやりな様子で口を開いた。
「ま、どうせ学年違うしいっか。それに先輩って佐和ヶ丘に知り合いとかいなそうだし」
「そうですね。お察しの通り俺のコミュニティは狭いもんで」
「俺、クラスのやつにはぶられてんすよね」
「は、ま・・・じで?」
思わず渚を二度見してしまった。
はぶられる?こんな男女ともに好かれそうな見た目して?いやいやいや。それよりも・・・
「お前まだ、高校入学して二週間じゃん。何・・・があったらそうなんの」
何をしたんだと言いかけて、慌てて言葉を変えた。別にこいつが悪いわけではないかもしれないから。
「同じ中学だった奴らが、俺が友達できないように示し合わせてるんすよね」
「何それ・・・えげつな」
渚は諦めた顔で肩をすくめる。いじめとは無縁の人生を送ってきた一砂にとっては、かなり生々しい話だった。
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