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Prologue
ーーー人生でたった10年しかない、最高に自由で貴重なこの時期に、なぜ若者はもっと冒険をしないのだろうか
どこかの偉人の名言みたいに言ってしまったけれど、これは俺のかつての親友が言った言葉だ。
そして、俺の今でも最も好きな言葉。
かつての親友、と言ってしまったけれど、別にそいつがもうこの世にはいないだとか、そういうわけではない。
そいつはもはや親友ではなく、俺を道から踏み外させようとする悪友へと変わってしまっただけで。
「あっそこ!一砂、もっと奥っそう!そろそろいける気がする」
「・・・・・・あのさあ拓。いい加減俺にケツ開発させるのやめろよ」
かつて俺を感動させ、人生は冒険だと心ときめかせた男は今、俺の部屋で四つん這いになりながら後ろに指を突っ込ませていた。その手にはBL本が、セックスシーンのページが見開かれ、拓は食い入るように見つめながら主人公たちと同じポーズを取っている。
「頼むよまじで。もう帰ってくれ」
「そんなっ!こんな中途半端なとこで止めんなよ!」
拓が悲痛な叫びをあげた。
「んなこと言われても、お前全然勃ってもいないし」
「大丈夫。諦めるにはまだ早いぜ」
いやもうさっさと諦めてくれよ、と一砂はうんざりした。
なぜこんなややこしい状況が生まれたかというと、それは一ヶ月前のある日のこと。
週末、一砂が家でゲームをしている時、スマホに拓からの着信が入った。一旦手を止めて電話に出ると、
「はい。どうし」
『あんのババアァ、もう許せねえ!!!!』
「・・・なんて?」
怒り発狂寸前の拓からなんとか話を聞き出すと、どうやら腐った趣味のある母親が間違えて、持っていた腐った果実をもう一冊買ってきてしまったらしかった。
『ロットンババアめ、いらないから古い方を一冊あげるとか言って俺の部屋の本棚に並べやがって!!!危うく友達に見られるところだったわ!!まっじでうざいもう嫌だあああ!!!』
「うっわ・・・それはやばいな」
拓の気持ちは痛いほどよくわかる。
なぜなら一砂の母親も腐っているから。一砂と拓は幼馴染だが、それは二人の母親同士が腐友達でサークル活動をしていたせいである。
二人が親友なのは、他の友達には絶対に話せない悩みをこうして共有できるからだった。
「もうそれ売っちゃえよ。手元にあってもだるいだろ」
『そう思ったんだけどさ、店員に顔見られんの嫌なんだよね』
「まあな。あ、ならネットは?」
一砂の思いつきに、拓は裏返った声ではしゃぐ。
『それだ!!ネットね!!ついでにあのババアの秘蔵本もまとめて片つけてやるぜ!!』
ウキウキと電話が切られる。一砂は拓に同情しながら、再びゲームに取り掛かった。
ーーーしかしそれから一週間後。
一砂が家で漫画を読んでいると、また拓から電話がきた。
「はい。今度はな」
『なあ一砂。どうしよう、俺』
受話越しの声が震えている。また何か母親関係の揉め事か、と思って心配したら、
『・・・俺、お尻に興味出てきちゃった』
「・・・・・・・・・・・・なんで?」
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