ss/ 私の声

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「ただ普通に呼んだだけだよ?」 「それが可愛いんだって。」 はあっと、何かを諦めたようにため息をつく昴君。 昴君はよく私のことを可愛いって言うけど、婚約 した今でもそれはくすぐったい。 結婚したらそういうのに慣れていくのかな? それとも、そういうのは無くなっていくのかな? あんまり甘い台詞を聞かされ続けるのは恥ずかしい けど、でもそれが無くなってしまうのは寂しい気も するしちょっと不安。 そんなことを考えていると、黙ってしまった私を 心配したのか昴君はまたぎゅうっと抱き締めて きた。 やっぱりドキドキはするけど、相手の体温にどこか ホッとする。 「また何か気にしてるんですか?」 「えっと…」 さっきまで照れていたはずの昴君は、もう体制を 立て直してしまったらしい。 すっかりいつものペースだ。 クスリと小さく笑いを溢したと思ったら、ピタッと 唇を私の耳につける。 「仕方ないですね。 帰ったらたっぷり可愛がってあげますよ。」 「なっ…!?」 「もちろんその時も、ちゃんと"昴君"って呼んで 下さいね。」 真っ赤になって固まっている私から、さっと離れると昴君は素早く手を拐って、まるで早く帰ろうと 言ってるみたいにグイグイ引いていく。 その時初めて、そう言えばここは公共の場だと いうことを思い出した。 …周りの視線が痛い。 恥ずかしくて顔を伏せたまま歩くけど、不安はもう 消えていた。 ───帰ったらまた気持ちを込めて、たくさん 昴君って呼んでみよう。 私の気持ちがちゃんと彼に届くように。
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