ss/ 愛しい声

1/6
前へ
/108ページ
次へ

ss/ 愛しい声

「38度7分…完全に風邪だね。」 ベッドから起き上がる元気もない私から、そっと 体温計を受け取った昴君はすっぱりと言い放った。 元からあんまり頭が回る方じゃないけど、熱のせい で更に回らない。 それでも何とか必死に言い訳を考えた。 「えっと、午前中しっかり休めば午後には元気に なれると思う…」 「駄目。」 まるで小さい子を叱るみたいにピシャリと言われて しまう。 またあれこれ考えてはみるものの、目の前でじっと こちらを見つめる昴君には太刀打ち出来そうに ない。 「でも…」 「駄目。」 「じゃあ…」 「駄目。」 何を言っても"駄目"としか返ってこない。 もうこうなったら項垂れるしかなかった。 きっと見るからに凹む私を見て情けなくなったのか もしくは呆れたのか分からないけど、昴君は小さく ため息をつく。 ズキンと胸が痛くなる。 「とにかく、今日は一日ゆっくり休むこと。」 …そう言って部屋を出て行ってしまった。
/108ページ

最初のコメントを投稿しよう!

588人が本棚に入れています
本棚に追加