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ss/ 愛しい声
「38度7分…完全に風邪だね。」
ベッドから起き上がる元気もない私から、そっと
体温計を受け取った昴君はすっぱりと言い放った。
元からあんまり頭が回る方じゃないけど、熱のせい
で更に回らない。
それでも何とか必死に言い訳を考えた。
「えっと、午前中しっかり休めば午後には元気に
なれると思う…」
「駄目。」
まるで小さい子を叱るみたいにピシャリと言われて
しまう。
またあれこれ考えてはみるものの、目の前でじっと
こちらを見つめる昴君には太刀打ち出来そうに
ない。
「でも…」
「駄目。」
「じゃあ…」
「駄目。」
何を言っても"駄目"としか返ってこない。
もうこうなったら項垂れるしかなかった。
きっと見るからに凹む私を見て情けなくなったのか
もしくは呆れたのか分からないけど、昴君は小さく
ため息をつく。
ズキンと胸が痛くなる。
「とにかく、今日は一日ゆっくり休むこと。」
…そう言って部屋を出て行ってしまった。
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