惑わせる声

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「そんなにキョロキョロしてどうしたんですか?」 「だ、だって、こういうお店は初めてだから。」 瀬戸君が行きたいお店があるからと言って、連れて 来られたのはすごく高そうなステーキ屋さん。 お肉は好きだけど、今まではカジュアルなお店に しか行ったことがなかった。 このお店の雰囲気は、そういったいつも行くような お店のものとは明らかに違って、どうしても落ち 着かない。 「遠慮しないでたくさん食べて下さいね。 今日は僕の奢りなので。」 「やっぱりそれは悪いよ。」 「悪くなんてないですよ。 僕から誘ったんですから。」 言いながら馴れた様子でウェイターさんを呼び 止めた瀬戸君は、サラッとシャンパンを注文 している。 それを見て、今までは私に合わせてカジュアルな お店に付き合ってくれていたのかもしれないなと 思った。 「この店、お酒も美味しいんですよ。 そっちも遠慮しないで下さいね。」 にこりと爽やか王子スマイルを浮かべる瀬戸君。 その笑顔で言われてしまうと、何だか断りずらく なってしまうんだ。 とりあえず比較的安いお肉をと考えて、メニューに 目を通していたら、さっき注文したシャンパンが 運ばれてくる。 これまた高そうなグラスに入ったそれを瀬戸君は ごく自然な動作で手にした。 慌てて私も真似する。 「お疲れ様です。」 「あ、お疲れ。」 カチンとグラスを合わせて乾杯して、恐る恐る それを口にするとビックリするくらい飲みやすくて 美味しかった。
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