惑わせる声

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立ち上がると足元がグラついて、よろけそうに なった私を瀬戸君はそっと支えてくれた。 ───本当に王子様みたい。 焦点の定まらない目でその綺麗なお顔をぼんやりと 眺めていたら、クスリと笑われた。 「送って行きますね。」 瀬戸君の優しい声が聞こえる。 あれ?お会計はどうなったの? もしかしてもう済ませてくれた? しかも送らせてしまうなんて申し訳ない… そんなことがぐるぐると頭を巡ったけど、眠くて 眠くて声にならない。 ふにゃふにゃになってしまった私の体を支えながら 瀬戸君はゆっくりと夜の街を歩く。 ふいにカクンと膝の力が抜けて、私はベシャッと 地面に倒れた。 「大丈夫ですか?」 「………いたい。」 眠いけど痛みははっきりと分かる。 瀬戸君はそんな私を丁寧に起き上がらせてくれて ぶつけたせいでじんじんと痛むオデコに 手を当てた。 「タクシーを拾って来るので待ってて下さい。」 まるで小さい子をあやすみたいに、オデコを なでなでした瀬戸君は、タクシーを拾いに道路へ 駆けていく。 ───ああ。 申し訳ないなぁ。 って思うのに、体はやっぱりふにゃふにゃで 思うように動かない。 そんな私の元に、瀬戸君はすぐにタクシーを連れて 戻ってきた。
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