惑わせる声

7/11
580人が本棚に入れています
本棚に追加
/108ページ
支えられながら後部座席に乗り込むと、瀬戸君も さっと隣に座る。 「真白さんの家の住所は?」 「えっとー………」 眠気に負けそうな頭をフル回転してもにょもにょ と住所を口にすると、それを上手く聞き取って 運転手さんに伝えてくれた。 ゆっくりとタクシーが動く。 そこで眠気が限界にきた私の頭は、コクンと 揺れてしまう。 その時、そんな私の頭を支えるようにぐっと 手が回された。 流れるような動作で引き寄られて、行き着いた先は 瀬戸君の肩。 ポスンッと私の頭は収まっていた。 「寝てていいですよ。」 瀬戸君の肩は見かけによらずがっしりとしてて やっぱり男の人なんだなと思う。 重くないかな? 大丈夫かな? なんて、肩を貸してもらって申し訳ないと思い ながらも迫りくる眠気には勝てない。 瀬戸君の優しい言葉に甘えて目を閉じれば 急速に意識が遠退いていくのが分かった。 …もう駄目。眠い。 「まさか真白さんがこんなにお酒が弱いとは 思いませんでした。」 薄れ行く意識の中、微かに聞こえる瀬戸君の声。 「他の人の前ではあまり飲んだら駄目ですよ。」 それは耳元で囁くような声だった。 結局、瀬戸君の話を聞くことなく、こんな状態に なって迷惑をかけている私なのに、決して責める ような口調ではない。 だから素直に頷いた。 【俺以外にこんな可愛い姿を見せるなんて 許さない。】 ───あれ? 今のって…? この時聞こえてきたもう一つの声は、激しい眠気に よって消えていった。
/108ページ

最初のコメントを投稿しよう!