聞こえるはずのない声

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それは、うちの会社の中で王子と呼ばれている 二つ年下の瀬戸昴(せと すばる)君。 うちの会社の若手のホープ。 すっきりとした目鼻立ちの端正なお顔。 スラッとしたモデルさんのような体型。 そしてどこか品のある佇まい。 彼ににこりと微笑まれてしまえば、女の子達はもう メロメロだ。 仕事は出来るし、気遣いも出来るし、正に完璧 正真正銘の王子と言えるほどの人。 そんな彼がうちの部署に配属されて初めて顔を 合わせた時に、気づいた。 『よろしくお願いします。』 そう言って手を差し出されて、仕方なくその手を 握った時のこと。 いつもだったら聞こえてくるはずの心の声が 全く聞こえなかった。 あれっ?と思ってぎゅうっと手を握り締めて しまった私に瀬戸君はクスクス笑っていたっけ。 それから然り気無く、瀬戸君に接近してわざと ぶつかってみたりしたけど、やっぱり結果は同じ だった。 そんなこと人生で初めてで、何の気を使わなくても いい人に巡り会えたことが嬉しくて、私はそれ以来 瀬戸君にだけは自分から話しかけることが増える。 ───そして今ではすっかり仲良しに なっていた。
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