惑わせる声

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その瞬間、かあっと顔が熱くなった。 最悪だ。 寝起きの変な顔を見られてしまうなんて。 慌てて両手で顔を隠した私を見て、瀬戸君はふっと 吹き出した。 「今更隠しても遅いですよ。」 「だ、だって恥ずかしい!」 「何でですか?」 「絶対変だから!」 ふいに、動く気配を感じたと思ったら瀬戸君の 手が私の手をそっと掴む。 そしてゆっくりと両手を顔から外してしまった。 再び目の前に現れる瀬戸君のどアップ。 「可愛いですよ。」 【やばい。ほんと可愛い過ぎ。】 ドクンッと心臓が跳び跳ねた。 だって今、瀬戸君は確かに私のことを"可愛い"と 言って、そしてまた心の声も同時に"可愛い"と 聞こえてきたから。 あの結婚式の日以来、聞こえることのなかった 心の声が何でこのタイミングで聞こえてきたのか 分からない。 何かの間違いだと思っていたのに。 いやでも、そんなことよりも何で瀬戸君が私なんか のことを可愛いなんて言うのか分からない。 「そう言えばオデコは大丈夫ですか?」 困惑する中、掴んでいた私の手を離して、今度は オデコに瀬戸君が触れる。 昨日ぶつけたからか、触られるとまだ少し痛んで ピクッと反応してしまった。 「まだ痛むんですね。」 言いながら、瀬戸君はそっと顔を近づける。 そして───ふわりと私のオデコに唇を寄せた。
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