聞こえるはずのない声

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「真白さん。 今晩空いてますか?」 定時を迎えて、ちょうど帰り仕度を始めた時の こと。 瀬戸君は私なんかよりも早く、ちゃんと帰り仕度を 済ませていた。 「うん。空いてるよ。」 「よかった。 この前テレビで紹介されてた美味しいパスタの店 に行きたいと思って。どうです?」 「パスタ!いいね。 行きたいな。」 「じゃ、決まりですね。」 私も早く帰る仕度をしなくちゃと慌ててデスクの 上を整理していたら… 「なーに? あんた達またデート?」 同い年で同期の知佳ちゃんこと、鳴海知佳 (なるみ ちか)はニヤニヤしながら私達に 近づいてきた。 思わず顔を上げる。 「もうっ。何度も言ってるでしょ。 瀬戸君は私の人生で初めての男友達なの!」 そう。 瀬戸君と仲良くなって、こうやって二人でご飯に 行くこともよくあるけど、誤解はしないで欲しい。 私にとって瀬戸君は、大事な大事なお友達 なんだから。 それに、うちの会社の王子が私なんかと噂に なったら申し訳ない。 「だってさ。 瀬戸、あんたも苦労するね。」 「ご心配なく。 今の状況もそれなりに楽しんでるので。」 知佳ちゃんと瀬戸君はたまにこうやって私を 置いてきぼりにして、よく分からない会話を始めてしまう。 だからそういう時は、あまり深く考えないことに してるんだ。
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