聞こえるはずのない声

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瀬戸君が待っててくれてるんだからと、急いで 仕度をしようとすればするほど、何だか上手く いかない。 ワタワタしてる私を見て、瀬戸君はクスリと 笑った。 「そんなに慌てなくていいですよ。」 そういう優しい台詞をサラッと口に出来るのは やっぱり王子だからかもしれない。 落ち着きを取り戻した私は、ゆっくりと仕度を 進める。 その様子を瀬戸君は、ニコニコと何が楽しいのか 笑顔で待っていた。 やっと帰り仕度を終えた私が立ち上がると ちょうど、同僚の男性と肩がぶつかってしまう。 「あっ…ごめんなさい。」 ビクンと反応する私の体。 相手の男性はチラリとこちらを見ると、何でもない 風に微笑む。 口から出た言葉は… 「大丈夫だよ。お疲れ様。」 なのに、聞こえてきた心の声は違った。 【チッ。デートかよ。】 ───ああ。 また聞きたくない声を聞いてしまったな。 もうこんなこと慣れたはずなのに、一瞬にして ウキウキとしていた気持ちが萎んでいく。 その時、ポンッと肩に手が置かれた。 思わずまた体が反応しそうになったけど、それが 知佳ちゃんだったから安心したんだ。
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