聞こえるはずのない声

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───その週の日曜日。 先月寿退社をした後輩の女の子の結婚式があり 私は瀬戸君や知佳ちゃんと一緒に参加した。 この年齢になると何度か結婚式には呼ばれたけど やっぱり毎回思うのは、素敵だなってこと。 バージンロードを歩いてくる姿だったり 誓いの言葉や誓いのキス。 その全てが幸せに包まれてて、キラキラして見えて 結婚っていいなって思ってしまう。 まるで自分のことのように感動して、グズグズ 泣き始めた私にふいに渡されるハンカチ。 隣を見ると微笑む瀬戸君が。 「使って下さい。」 「で、でも…」 「どうぞ。」 相変わらずの爽やかスマイルで差し出されては 受け取らないわけにいかない。 「ありがとう。」 「どういたしまして。」 やっぱり瀬戸君は王子だ。 こういう然り気無い気遣いがスマートで、浮かべる 笑顔は優しくて、本当に完璧な人。 質の良さそうなそのハンカチを私なんかの涙で 汚すのはちょっと申し訳なかったけど、せっかく 借りたから有り難く使わせてもらった。
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