専務との対面

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素敵な笑顔だなぁ…。 最初冷たそうに見えたのも気のせいだよね。 社長相手に闊達に話す榎本専務に好感を抱いた。 (良かった…この人だったらやっていけそう) 「失礼します」と梨花と頭を下げて、部屋を後にする…と同時に。 「すっごい、イケメンだったね!」 梨花が目をまんまるにして、興奮している。 扉1枚はさんだ向こうに、本人がいるので、声のボリュームはもちろん下げている。 「いいなー! 代わってほしいよー」 「ハハハ…」 私こそ梨花と代わりたいよ…。 森山と再会したとき、「同期も一緒に」なんてランチに梨花を誘わなければ良かった、と何回も思ったよ。 あのきっかけさえなければ、2人が結ばれることだってなかったのに、って。 「じゃあ、ここで」 梨花が社長室の前で手をふる。 「専務の執務室がもっと近ければ良かったのに…」 ボソッと真顔でつぶやく。 暢子は聞かないふりをして、手をふって別れた。 専務の部屋は、渡り廊下を挟んだ新館にあり、秘書室と社長室から離れた場所だった。 暢子は数日前から何回も訪れて、掃除をしていた。 今日も一応、机を磨いておこう。 部屋のなかに簡易的な秘書用の机が用意されている。 イケメンと一緒の空間なんて緊張してしまうなぁ。 机を拭いていると、ノックの音が聞こえて、榎本が颯爽と入ってきた。 「お疲れ様です」 「……」 無言…。 「あ、あの…何か入り用のものがありましたら手配しますので」 榎本はドサッと椅子に腰掛けると、 暢子に向かって不敵な笑みを浮かべる。 先ほどの優しい笑顔とは、全然違っている。 「早速で悪いけど、ここ数年分の経営企画会議の議事録用意してくれない?」 「……は、はい?議事録ですか?」 えっとえっと…と慌てて、ポケットからメモを取り出そうとして、床に落としてしまう。 「す、すみません…!」 「俺、すみませんって言葉嫌いだから、簡単に使わないで」 「……すみ、あ……」 「あと、ちょっと厳しめにいくけど覚悟しといてね」
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