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目を開けると、まっ白な天井が見えた。
あれ?家の天井じゃないな…。
かすれた声で「ここどこ?」とつぶやく…。
「病院だよ」と応答する声が聞こえた。
華ちゃんが…心配そうに弥生を見下ろしていた。
どうやら、今ベッドに寝かされているらしい。
「目覚めて良かった~。本当に良かったよ~」
華絵は安堵して、弥生の手を握りながらしゃがみこむ。
そして半分泣き声で、言った。
「あの綺麗な人、目を離したすきに、突然接待ルームに行ったんよ。そのあと弥生ちゃん倒れたって聞いてな。何かされてたらどうしようって…。止められなくてごめん」
「大丈夫よ」
華絵の手を、優しく撫でた。
鼻をグズグズさせながら華絵が言う。
「先生呼んでもええ? 目が覚めたらナースコールしてほしいって言われてるよ」
「うん、いいよ」
華絵はナースコールをビーと押した。
「長田さんもさっきまでおったんだけど、別の用事で帰ってしまったの。弥生ちゃんの彼氏?っていいかしら…。も、東京に帰ってしまったんだよ」
…勇二らしい。
面倒なことが起きる前に、逃げたわけか。
でもまあこれで、愛媛までもう来ることはないだろう。運良く厄介払いができたと思おう。
勇二=弥生の彼氏だと、
真実子に誤解されたままだったが、
華ちゃんには本当のことを言っておきたかった。
「ちなみにアイツは彼氏じゃない、元の恋人」
「ほうなん…。雰囲気が少し武に似てるかな、と思ったけど」
「中身は全然違うでしょう?」
華ちゃんはためらいもなく「うん」とうなずいた。
華絵の旦那の武ならば、華絵が倒れたとなれば、つきっきりで看病するだろう。
その反面、そそくさと逃げるように帰った勇二…。華絵は強い不信感を持ったようだった。
先生がやって来て、弥生と2人きりにして欲しいので華絵に部屋から出ていくように告げたが、弥生が「家族のような人だからここにいても構いません」と、押し止めた。
先生が「過労です」と言ったときには(やっぱりね)とホッとした。
…でもその後が問題だった。
「…妊娠の兆候があります」
華絵が驚きのあまり、「ひゃっ!」と声をあげた。
「妊娠…されてる可能性が高いです」
先生がダメ押しで、再び告げた。
弥生の頭にまっさきに浮かんだのは、
(神様ありがとうございます…)だった。
未婚の母になる戸惑いももちろんあったが、三橋さんとの子どもが産めるのだ、
あの日はギリギリ安全日、でも奇跡が起きた。
喜びが溢れた。
先生が部屋からいなくなり、絶句している華絵に「これまでのこと話していい?」と聞くと。
華絵は頭を勢いよく縦にふった。
「父親は…元恋人?」
「違う! この子の父親は……」
弥生が愛おしそうにお腹を撫でると。
いきなり、真実子の形相がフラッシュバックする。
『どんな手を使っても引き裂いてやる!』
美しい顔が、一瞬般若のような顔になっていた…。
もしも三橋の子どもをみごもっていることが、真実子にバレたら…。
弥生は「ごめん。やっぱり今はまだ言えないわ」と下を向いた。
華絵のことだから、「そう、わかった」と言って引き下がると思っていたのだが…。
「弥生ちゃん! なんで? さっき私のこと家族みたいって言ってくれたじゃない。どんな相手でも私は…絶対反対しないし。こう見えて口は固いよ。信用してよ!」
華絵にしては、珍しく弥生につっかかる。
こんな夜遅くまで、私を心配して待ってくれている子なんだ。信用できる。と弥生も思い直した…。
「じゃあ、全部話するね」と語りだした。
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