番外編③ さらばミツハシ part3

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病室で華絵にすべて話し終える、と同時に。 ナースが「消灯時間ですよ」と電気を消しにきた。 (あ、もうそんな時間か!) と弥生が華絵にタクシーで帰るよう、財布を出そうとしたとき。 「今日は一緒に泊まるって、武には話してあるから」 と言って、華絵はそばにあった簡易ベッドを出して寝転がった。 「いいの?」 弥生が聞くと、 華絵は力強くうなずく。 華絵の優しさにじんわりとくる。 真っ暗になった病室で、しばらく沈黙が続いた。 華絵はきっと…弥生の話を反芻しているのだろう。 もしかしたら呆れているのかもしれない。 「……」 「……」 突然、華絵がつぶやいた。 「まさか、三橋社長だったなんて」 「……ごめん」 「なんで謝るの。そんなすごい人に愛されるなんて、やっぱり弥生ちゃんはタダ者じゃあないね」 「……」 「…ただ。もしなぁ、武の子どもが他にいるって考えたら、私はめちゃくちゃ悔しい。だからもし子どもができたことを知ったら、あの奥さんの矛先は弥生ちゃんに向かうよ」 「…そう…だね」 「しばらくは…元カレの子どもとして育てたほうがええかも…な」 「……」 「産休もとらんほうがええな。あの奥さんは会社の人事まで顔つっこんでるでしょ?」 「……そうだね。そこまで考えてなかったわ。 会社やめて実家に戻るしかないかしら…」 「長田さんに相談したらええよ。悪いようにはしない。あと長田さんの奥さんがな、看護婦さんだったから色々アドバイスもらえると思うよ。 実は…私もなぁ、実は妊娠の相談のってもらってん……。欲しいけどなかなか思うようにいかなくて…な。身体冷やすなーとか、基礎体温つけなさいーとか毎回怒られてるよ」 「……」 「赤ちゃん出来るのは奇跡よ。宝だよ。私も協力するから…軽々しくはいえないけど、産んでほしいと思うよ」 「…ありがとう」 「営業は会社におらんからな、どうにかこうにかごまかしできるよ。ゆったりめの服きたりしてな。仕事も私もこれまで以上に頑張るから…でも本音はなるべく早く復帰してほしいな。毎月の収支報告書いつも数合わないの、なんでだろ~。 あと預け先な…営業所内に託児スペースつくって交代で見回るとかしようか?…って。え?!」 暗がりのなか、突然弥生に抱きつかれて、華絵は驚いた。 震えながら、鼻をすする弥生に、 「弥生ちゃん…泣いてるの?」と聞く。 「……ん、ありがとう。ありがとう。華ちゃん」 「…そんな。私は…」 「不安なの。子どもが出来たのはすごく嬉しい。だけど…本当に産んでいいの? 何よりも三橋さんの反応をみるのが怖い。家庭があるし、社会的地位のある人なんだよ。喜ばないかもしれないじゃない。…怖い、怖いのよ」 「……」 弥生は続けて言う。 「三橋さんには…絶対言えないね」 「……」 「…隠して育てるしかない。二度と会うこともないだろうし」 三橋との思い出が、脳内をフラッシュバックする。 迎えにくるとかなんとか言ってた気もするが。 どこまで本気にしていいのだろうか…。 でも…駄目だ…。 あてにしてはいけない。 私1人で育てていかなければ。 泣くのは今日で最後にしよう。 氷女、鉄火面…。 今まで散々言われてきたじゃない。 感情を押し殺して、たくましく生きていかなきゃ、これまでのように。 この子を産むときは35歳になる。 父親を知らないけれど、どこに出しても恥ずかしくない立派な人間に育てなくちゃ。 やってやる!と思ったとき、 思わず声がもれた。 「フフ…フフ……」  「ど、どうしたの?!」 「いや、気にしないで」 「…そうはいっても…気になるよ…」 弥生の頭の中で、今後のシミュレーションが繰り広げられる。 でもまずは無事に産みたい…。 今はそれだけを考える。 華絵に出会えた有り難さもかみしめながら、弥生はようやく安堵の眠りについた。
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