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番外編③ さらばミツハシ part4
華絵のアドバイス通り、長田さんに話をした。
長田さんは最初は絶句していたが、ぜひ産むべきだ!と涙ながらに言ってくれて。
奥さんである元看護婦の弓子さんに、産院を紹介してもらうこともできた。
こっちに来てから、つくづく人に恵まれていると思う。
本当にありがたいことだ。
幸せをかみしめる。
しかし事情が事情だから、産休はとれないだろうと今から覚悟していた。
ただでさえ、悪目立ちしている弥生なのだから、妊娠してることがわかれば相手は誰?と興味本位で騒がれかねない。
不本意だが、病欠扱いにしてもらう。
臨月になってから実家に電話して、しばらく赤ちゃんの面倒を見てもらえないか打診する。
3ヶ月ほどで保育園を探して、仕事に復帰。
…というプランを立てた。
確か母親が「今までの分、迷惑かけてもいいのよ」みたいなことを、去り際に言っていたはずだ。
浅はかな考えだし、親不孝なことだが、それを利用させてもらおうと考えている。
弟夫婦には先日、「奈々」という娘が生まれた。その延長線上で、私の子どもの面倒も見てほしい、と言うつもりでいた。
つわりに苦しんだ時期もあったが、概ね良好で、そろそろ安定期の5ヵ月目を迎えようとしている。
制服のスカートもワンサイズ大きくしてもらったりなどして、お腹はほとんど目立たない…はずだったのだが。
普段あまり見かけない営業員(名前も不明)が
「あれ? もしかして妊娠…されてます?」と出し抜けに弥生に聞いてきた。
「えっ…」
弥生は口ごもる。
会話を聞いていた華絵が、すぐに飛んできて「ちょっと朝原くん! なんなん。いきなり失礼だよー」と叱る。
「あ、結婚されてない…て聞いてたのにすみません」
頭をかきながら去っていく朝原が見えなくなってから。
「弥生ちゃん気にしないで。アイツちょっと変な奴なんだよ。前のところで使えないって飛ばされてきたのよ」
「知らなかったわ…」
「先週来たばっかだから。弥生ちゃん、病院に行くから休んだ日あったでしょ? その日にヌルッとやってきたのよ」
「ヌルッて…」
多少空気が読めない感はあったが、弥生には普通の青年に思えた。
出産は結婚が前提のことだ…。
彼は当たり前のことを言ったに過ぎない。
なのに、なぜこんなに傷ついてるのだろう。
「…朝原くんは、前はどこにいたの?」
「横浜支店っていってたかな。売上が高くて顧客も多いから第二の本社って言われていたと自慢げに言っとったわ」
「…」
天敵である伊田が所属していたところだ…。
重なってる時期はあるのだろうか。
上司部下の関係だったりするのだろうか。
一瞬ヒヤリとする。
(まさか、私のスパイ?)
なんてね。
思い上がりも甚だしいわ。
私なんかスパイして、奴に何の得がある?
真実子じゃあるまいし…。
そういえば、あれから真実子の奇襲もないし。勇二が恋人ってことで、本当に納得してもらえたのかしら。
身体がこんな状態じゃなければ、私も行動起こして調べたりできるのに。
日ごとに、命の重みを実感してきている。
攻撃するより守備しなければ、という思いのほうが強い。
いっときの熱情だったかもしれない。
でも私にとっては、最初で最後の恋になる。
その愛の証を…絶対に手放したくはない。
三橋さん…。
本社での情報がなく、いまどうなっているのか全くわからないが。
きっとバリバリと仕事をこなし、真実子とも…。真実子の元に戻って、夫婦をしているはすだ。
いつかこの子とも3人で、過ごせる日がきたらいいな。
弥生はお腹に手をあてて、目をつぶった。
その頃…。
朝原は公衆電話にいた。
「はい、そうです。お腹が少し膨らんでるように思いました。…え、証拠ですか? それはまだ。でも必ず吐かせます。また連絡します」
ガチャンと切って、ふう…とため息をつく。
「こっちも生活かかってるんだ。悪く思うなよ、前西弥生」
朝原はそういって、弥生の写真をぐしゃりと手のなかでつぶした。
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