番外編③ さらばミツハシ part4

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「ハァ…」 職場で深いため息をつく弥生に 華絵が「どうしたの?」と聞く。 「勘当されちゃったわ。アハハ…」 「いやいや、笑いごとじゃないよ!」 「勇二くんはもう新しい家庭があるだろう!未婚で産むなんて許さない!って」 前を見ると、黙って聞いていた朝原がぴくっと動いた。 そして、弥生の方を眺めてから、そうっ…と部屋を出ていった。 「…協力ありがとう、華ちゃん」 小さな声で、弥生がつぶやく。 「…これで良かった?」 「…とりあえずは……」 確固たる証拠がないうちは、これで勇二が子どもの父親だと思ってくれるはずだ。 「……勘当されたのは本当だけど」 華絵が驚いて、弥生を見た。 「父にもう帰ってくるな!って。母親も泣いてるばかりで、話さえ聞いてくれなかったわ」 未婚で産む、ということを甘く見すぎていたかもしれない。 もっと相談にのってくれたり、協力してくれたりするものだと思っていた。 「普通」だったらきっとそうだったはず。 自分のことばかりで、両親の心痛を思いやるのを考えなかった自分が悪い。 あてこんでいた味方がいなくなった分、これからの苦労…が一気に計り知れないものとなり不安が募る。 「…勇二さんには言ったん?」 「…うん。父親として演技してほしいけれど、あなたの子じゃないよってハッキリ言った。そしたら絶句して、電話切られたわ」 さすがの弥生も、勇二の子どもだとは嘘をつきたくなかった。 無事産まれるまでなんとか「父親」役をお願いできないか、口裏合わせをしてほしい、と。 無理を承知で言ったまでだ。 確かに元カノの子ども…しかも自分の子どもじゃない…なんて。 良い気分にはならない。 「……いろいろマズった……ああ、もう、作戦失敗かも」 そろそろ妊娠7か月…。 朝原と二人きりにはならないように、注意を払っている。 それに華絵との雑談でも、こうして勇二の話題を出すなどして、ミスリードしているつもりだが……。 「いっそのこと、三橋さん本人に言ってみたら…」 華絵がおそるおそる言う。 「それだけは華ちゃん…。ごめん、できない」 三橋がどんな態度をとるか、怖くて仕方がない。 しかもいま日本にはいないと聞いている以上、手をわずらわせたくない。 「ほうか…」 華絵も悲しそうにうつむいた。 そして…。 このまま状況は動かず…と思われたとき。 突然勇二から電話があった。 『俺が父親になる。ただし、条件がある。 それは俺と「復縁」をすること』 勇二の言い方だと、マミちゃんとは婚姻関係は結んだまま。 つまり、弥生に愛人になれ、ということだった。 なんて自分勝手な…。 でも私だって…周りを振り回している。 自分勝手なのは私もだ…。 「…わかった」 弥生は神妙に言った。 「じゃあ、来月会おう」 「しばらくはそっちには行けないよ」 「じゃあ産んでからにしよう。俺、ちゃんと父親代わりになるからさ。ちなみに本当の相手は誰…?」 「言えない」 「……どうせ俺にフラれてヤケになって適当な男と寝たんだろ。本当に悪かったよ」 「……」 (全然違う…!) でも今は話を合わせないと、拗ねられたら困る。 「ありがとう、よろしくね」 電話を切ってから、弥生は大きなため息をついた。 出産したら仕事を辞めて、どこか遠い場所に行くしかない…。 勇二との復縁なんか…考えたくもなかった。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 松山のビジネスホテルで。 「この人なら見たことあります。405号室のお客さん呼び出してって言われました」 意気揚々と話すのは、弥生が(敬語がチャンポンで新人?)とひそかに思っていたフロントのお姉さんだった。個人情報もなんのそので、得意気に話し続ける。 女性が指し示すのは社内報の三橋。 「2人はその後?」 「それは知りません。でもこの人…スイートルームを…直前でとった気が」 そのときになって、フロントのお姉さんは(しゃべりすぎた!)と、ハッと口をつぐむ。 「だったら調べてよ」 そして朝原が一万円札を、お姉さんの手に握らせる。 「あの夜の2人の動向を…」 朝原がニヤリと笑った。
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