番外編③ さらばミツハシ part4

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妊娠8か月。 もうさすがにお腹は目立ち、動くのも一苦労だ。 赤ちゃんも(ここにいるよ~!)と存在を主張してくる。 「いてっ! いてっ!」 「蹴られてるん?」 華絵が笑いながら聞いた。 「うん…元気いっぱい。出てきたら覚えてなさいよ」 弥生が自分のお腹をこつく真似をする。 「……なあ、弥生ちゃん。触ってええ?」 「ええよ!」 華絵の真似をして弥生が答える。 華絵が笑って、優しく弥生の腹をなでた。 「…パンパンやね。…どんな男の子なんだろうな」 「…父親似だといいけどね。頭いいし、イケメン…の部類だし」 「ほんならなぁ、私にもし娘が産まれたら、娘の彼氏になってほしいわぁ」 「ええよ!」 2人で笑っていたところ、来客を知らせるベルが鳴り、華絵が席を立った。 その間に、営業所周りの雑草を抜いていた朝原がやってきた。 「……前西さん、除草剤ってどこでしたっけ?」 「倉庫入って左側の棚です」 「持ってきてもらえません? ちょっといま自分手がはなせなくて」 朝原の全身を見ると泥だらけで、このまま所内に入ると壁や床が汚れてしまいそうなレベルだった。 「……はい」 よっこらせ…と立ち上がり、倉庫に行く弥生を、朝原がニヤリと笑って見ていた。 倉庫では、弥生が「除草剤、除草剤…」と探す。 倉庫はホコリっぽいので、念のためマスクをしていた。 「あった!」 除草剤は棚の一番上で発見する。 (あれ…なんかおかしい、前に整理したときは…一番下にしまったはずなのに) そしてここにきて、赤ちゃんがお腹の中で暴れに暴れている。 (…まさかと思うけど…) 近くにあったハシゴをよく見る。 …とネジが外してあった。 金属製の古い棚も、ギシギシ鳴っている。 (ハシゴに登って棚に手をかけたら、ハシゴは壊れて棚も倒れてくる…ってことか) あ、待って。 上段の除草剤を、目をこらしてよく見ると。 蓋がかすかに開いていた。 (そして最後の仕上げに除草剤が降ってくるのね。……手のこんだことしてくれるじゃない…) 「健太郎、サンキューね」 ひそかに名付けている我が子にお礼を言う。 危機管理力サイコーじゃない、この子。 (さて、どうしてやろう…)  そうこうしているうちに、カチャリと倉庫の鍵が締められた。 (あーしまった…さらに最後の仕上げに、発見を遅らされるパターンね……万事休すだわ) 弥生はずるずるとその場に座り込んだ。 勇二=父親説は…無理があり…。 どうやら簡単に見破られてしまったようだ。 朝原のバックにいるのは、伊田と真実子だろう…と見当がついている。 だからといって、弥生は太刀打ちできない。 ましてや身重で身動きがとれない。 仕返ししてやりたいし悔しいのだが…。 (こうなったら最後の手段…) 弥生は前前から考えていたことを実行することにした。 倉庫の鍵が壊れた&紛失した騒ぎで、1時間後に弥生が助け出された。 そこには、無傷だった弥生を不思議そうに見つめる朝原の姿があった。 泣きながら弥生にすがる華絵の傍らで、長田所長が弥生を見て、コクンとうなずく。 弥生もうなずき返す。 その翌日から弥生は…姿を消した。
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