番外編③ さらばミツハシ part4

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「ううぅ……」 当初は(ちょっと痛い)だった程度だったのに、次第に激痛となり断続的に襲ってくるようになった。 「いたい~いたい~」 「がんばるんぞね!! 弥生ちゃん!!」 弥生がヤオイに聞こえる。 ヤオイって… と頭の中でどうでもいいことを反芻する。 これまでの人生で味わったことのない痛みに意識が薄らぐ。 どれくらい経ったのだろうか…。 「このまま分娩室に…」と言う声を聞いて、 (やっと産める…)と思ったのは覚えている。 とにかく健太郎を無事に産むのだ。 そのことだけに集中しよう。 分娩室にストレッチャーで向かうさなか、 弓子さんが叫んだ。 「お母さん、来てくださったよ」 「弥生ー!」 久しぶりに会う母が涙目で駆けつけてきた。 「頑張ったね」 と弥生の左手をとって、ほおずりする。 (…まだ産んでないんだけど) と心でツッコミながら、ニヤリと笑う。 「弥生の旦那さんと一緒に来たんだよ」 は? 旦那さん? (…勇二のこと? だったら勇二くんというはずだよね。…誰? まさか?) 声に出して聞きたいところだが、痛すぎて声が出せないし、 母の背後にいると思われるその「旦那」とやらを起き上がって見たいところだが、いまは腹筋が機能していない。 (旦那とやらよ…せめて声を出して…。 誰なのよー) そうこうしているうちに、ガラガラと運ばれて分娩室に入ってしまった。 そこからはもう…踏ん張って踏ん張って踏ん張って…。 涙、鼻水を出して、荒い息、ときには雄叫びをあげて、健太郎を産み落とす。 オギャアアギャア!! 元気な赤ちゃんの声を傍で聞く。 安堵感で心が満たされた。 (ああー無事に産めて良かった…。 本当に猿みたいだわね、新生児って) 「健太郎、よろしくね」 看護師に抱かれる赤ちゃんに、ヨロヨロと手を伸ばす。 体力はすでになく、そうつぶやくのが精一杯だった。 疲れきっていて、もう目を開けていられない。 ストレッチャーでどこかに運ばれていくのを感じる。 「頑張ったね」 母の涙声が聞こえる。 そうそう、今度こそ頑張ったよ。 「弥生、ありがとう」 うんうん、産みましたよ、あなたの子を。 片目を開けると、 上から三橋が覗き込んで、お礼を言っているのがぼんやりと見えた。 (なんて良い夢なのかしら…) 弥生は幸せに包まれて、そのまま眠りに落ちていった。
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