番外編③ さらばミツハシ part5

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弓子さんの親戚の離れに移ってから、2週間ほど経った頃…。 長田所長と華絵がやってきた。 弥生とはようやく再会…そして健太郎ははじめましてのお披露目となった。 「かわええなぁ、なんなのこの手。ちっちゃあ!」 華絵は抱っこしながら歓喜の声をあげた。 「やっぱりイケメンやーん。 弥生ちゃん、こないだの約束守ってな」 「?」 「私も…出来たみたいなの。まだ弓子さんの診察うけてないんだけどな」 「え、やったやった! もちろんよ。女の子が産まれたらってやつでしょ。良かったね、健太郎! 彼女できたよ」 健太郎のほっぺたをつつくと、「ふにゃ」と声をあげて手足を動かした。 長田所長が呆れてため息をつく。 「なーに言ってんだか。まだ性別もわかってないのに。気が早いよぉ」 そういいながらもどことなく嬉しそうだ。 「華絵、弓子に早く診てもらえよ」 「はいぃ」 弥生はずっと言いたかったことを告げる。 「長田所長、いろいろありがとうございました。朝原から守ってくださり、感謝してます。保育園見つかったらすぐ仕事復帰しますので」 「あ、それなぁ。前ちゃん…東京に戻る気あるか?」 「え…」 「いま東京本社の経理課で1人欠員が出てるそうだ。前ちゃんさえ良かったら、自分から推薦状書くよ」 「…いいです。いらないです。私はここで子育てしたいです」 「でも、子どものこと隠しとおしてフルタイムで働くつもりなんやろ。だったら実家が近いほうが何かと都合がええと思うんよ。我々としては寂しいけどな…」 部屋の外で話を聞いていた弥生の母親が、控えめに口をはさんだ。 「帰っておいで。私たちが健ちゃんをみるから。奈々ちゃんもいるし、1人も2人も変わらないよ」 「……」 華絵も目尻に光るものを溜めながら、 「そうしたらいいよ。でもときどきは、こっち来てな……育児のこととか話聞いてほしい」 そう言って袖口で涙をふいた。 弥生は華絵を抱き締める。 「……うん」 長田所長は、三橋とのことも考えてくれたにちがいない。 東京にいる方が会いやすくなるだろう…と。 絶対絶対いつか恩返ししよう。 弥生は決意を心に刻みこんだ。 その頃…。 三橋は真実子に別れを切り出していた。 「絶対別れない! 離婚してバツイチになるくらいなら私死ぬ!!」 包丁を取り出して「本当よ、私死ぬからね!」 と脅しをかける。 何を言っても無駄なことはわかった。 それ以来、別れ話を切り出すことは難しくなった。 「…私、孝太郎さんから一生離れないわ」 真実子は三橋にしがみついた。 三橋にも、真実子に対する情が多少はあったのだと思う。何が何でも離婚、ではなく、相手がその気になるまで、という、ときぐすり方式をとることになった。 それに真実子は恋愛体質だからきっとそのうち…という三橋の目論見はあたり、ある日突然「好きな人ができたから離婚してもいいわ」といって、こちらが拍子抜けするくらい簡単に離婚してしまった。 健太郎が3歳で、ときどき前西家にくる男の人が「パパ?」と認識できるようになってきた頃だった。 「籍を入れて、3人で住もう」 三橋が実行に移そうとしたとき。 また第2の問題が起きた。 三橋家からの猛反対だ。 三橋会長(孝太郎の父親)が、弥生とその子どもを認めない!とつっぱねたのだ。 「どこの馬ともわからない女に、しかも不倫をしていた女なんかと結婚はするな!」 そして…真実子を可愛がって信じきっていたゆえに… 「どうやら子どもも違う男の種からできたらしいな、汚らわしい女だ。二度と顔を見せるな!」と弥生親子は追放されてしまった。 「孝太郎、再婚しろ!」 当てつけのように良家の女性をあてがったが、三橋は無視をし続けた。 籍を入れられず、事実婚状態になってしまったが、弥生はそれでも幸せだった。 このまま平穏無事に…のはずだったが…。
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