番外編③ さらばミツハシ part5

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途中でタクシーを拾い、 三橋が暮らす豊洲の高層マンションへ向かう。 「ちょっと…まずいんじゃないの。週刊誌に写真撮られたりでもしたら……」 と、弥生は気が気でない。 ただでさえイケメン独身会長の恋バナは、全社員や取引先、その他大勢が興味・関心を抱いている。 突如現れた実の息子、三橋健太郎 の母親は誰なのか?をめぐって「賭け」までされているという…。 ちなみに、伊田はかつて「三橋孝太郎会長は前西弥生と恋人同士だった」などと噂を流したことがあったが、 「ぷっ!まさか!」と一笑されて、噂は広まらなかった…らしい。 確かアメリカ行く前の、榎本龍大も…そんな反応だった。 失礼な話だが、それほど我々は結びつかない相手なのだ。 下町の商店街で育ってきた弥生にしてみたら、豊洲という洗練された場所は、同じ東京でも…気後れしてしまう。 やっぱり私たちはどうしたって似つかわしくないのよ…。 それでも、最後の逢瀬だからと気合いを入れて、三橋とタクシーを一緒に降りた。 わざと腰をまげて老女の真似をする。 もし写真を撮られても、三橋が「母親だ」とか「腰を痛めた人を看病した」と言い訳ができるように…。 当の本人はまったく気にしていないようだが。 夜景が一望できる三橋の部屋に通される。 過去に二度ほど来たことがあるが、毎回来るたびに惚れ惚れとしてしまう。 部屋を見渡して…女性の影はないように思えた。別れを切り出したくせに、ホッとしてしまうのはなんなのか。 「じゃあ、ゆっくり話しようか」 ソファーに座ると、三橋はビジネスライクに切り出した。 ローテーブルには、マッカランが用意されている。 「ゆっくりも何も…さっきの話が全てなのよ。あなたには…ふさわしい相手と幸せになってほしいの、以上!」 「次は俺のターンでいい?」 「…いいわよ」 「嫌だね」 即答だった。 「……」 「あなたが俺の元から去ろうとしたって、追いかけていくよ」 「……愛媛まで来るっていうの?」 「もちろん行くさ。月1、いや2でも行ける…」 「呆れた…。仕事はどうするのよ」 「健太郎がいる」 「まだ青二才じゃない。伊田に変なことされないよう見張っていてよ」 「アイツはなかなかしっかりしてるから大丈夫だよ」 「…そう」 「俺たちの子どもだから」 「…」 「俺は、子どもは健太郎だけでいいと思ったし、妻にする人も1人でいいと思ってる」 「……」 三橋はサイドテーブルから小さい箱を取り出して、 「結婚しよう」 そう言って、指輪を見せた。 「……」 弥生は絶句する。 (いつのまに…。私を家に連れてきたがっていたのも…指輪を取りにきたからなの?) 「会社では前西でいたいというあなたの想いを尊重して、ここまで我慢してきた。ようやく…と思った矢先に別れたい…って言われても、俺は絶対…納得しない」 「……無理よ。今さら一緒に暮らすなんて」 「しばらくは別居だろ。あなたは愛媛で、自分は東京だ」 「…無理よ、絶対無理! お断りします!」 立ち上がりかけた弥生の腕をつかむ。 「いつも俺を支えてくれた。この何十年、あなたがそばにいてくれたから俺は頑張れた。弥生なしじゃ俺は…やっていけない」 振り返ると、三橋が細かく肩を震わせている。 「普通の夫婦ではなかったかもしれないけれど、あなたが俺の前に秘書として現れてから…人生が輝きはじめたんだ」 「……そんな」
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