番外編③ さらばミツハシ part5

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想いはまったく一緒だった。 弥生だって、三橋と出会い支えてもらったから…ここまで働くことができた。 何より、健太郎という愛おしい息子まで…授かることができた。 シングルマザーで、表立って三橋とは夫婦とはいえず、家族にはなれなかったけど…。 それでもあの夜、三橋にすべてを捧げたことはまったく後悔していないのだ。 「家族になれる? 今からでも」 「なれるさ」 「…無理だと思うわ。一緒に暮らしたこと、ほとんどないし」 「……暮らしてみないとわからないだろう」 気がつくと、三橋が弥生の背後にまわっていた。 「はめてみて」 指輪を弥生の薬指に、そっと入れる。 「…ぴったりだ。よかった」 「よくサイズがわかったわね」 「そりゃそうだよ。何十年の付き合いなんだから」 「…とんだ腐れ縁ね」 「腐っててもなんでもいいさ。弥生とつながっていれば」 「…返事は今度、でいいかしら?」 「……いいよ」 「指輪もとりあえず外しておくわ。 汚すと悪いもの」 「……」 指輪を箱に戻すと、 「ありがとう…」と弥生がつぶやく。 ほんの一瞬、声が震えた。 嬉しいという感情が…出てしまった。 それに気づいたのか気づいてないのか、三橋は弥生の顎をあげて、おでこに軽くキスをする。 「…泊まっていくだろう?」 「……帰るわよ」 「…帰さないよ」 脇の下に両手を差し込んで、立ち上がらせる。 そしてソファー越しでキスをし始めた。 「……気持ち悪くないの? こんなおばさんとなんて。若い子のほうが、んっ」 舌を深く差し込まれ、絡みあう。 もう何も言うまいと思う。 弥生もそろそろ素直になりたかったのだ…。 実際のところ、三橋との情交は好きだ。 本当に…この先も関係を続けていける…? ずっと何年も悩んでいたことが、三橋の甘い言葉で解消されるとは、さすがに思わなかった。 でも、この熱いキスと抱擁ですべてが溶けていくような気がする。 今夜はもう、このまま…身をまかせよう。 朝になって、 隣で寝ている弥生に、三橋がささやく。 「必ず迎えにいくから」 弥生も自分と同じ気持ちであることは、昨晩で確証を得た。 定年退職したら…第二の人生を弥生に捧げよう。愛媛に家を買ってもいい。 そうだ、本人に言わなかったけど…。 弥生が現れてから、仕事がトントン拍子で順調になった。 あなたは幸運の女神なんだ。 自分にも、ミツハシにとっても。 そして健太郎…。 唯一無二の息子がいるということ。 どんなに幸せか、あなたはわからないだろう。 シャイな弥生のことだから、憎まれ口を叩くに違いない。 だが、わかってもらえるだろう。 弥生じゃなきゃ、ダメだということ。 後ろから寝ている弥生を抱え込む。 左手を触ると、薬指に指輪の触感があった。 (あのとき外したはずなのに?) その意味がわかって三橋は笑顔になる。 そしてふたたび微睡みはじめる。 今日は土曜日…。久しぶりに「夫婦」水入らずでゆっくり過ごすつもりだ。
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