これってサービス精神ですか?

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なんで私なのだろう。 ぐるぐると頭の中で渦が巻いている。 25歳っていったっけ…。 東大だって。頭がいいんだって。 そんな人の秘書なんて、どうしよう…。 辞令後は予想していた通り、 総務部のミツハシガールの当たりが目に見えて強くなった。 いつもにも増して、仕事量が増える。 ミスが増え、慌てふためく暢子を見て陰口を言って笑う。 「なーんだ。たいしたことないじゃん」 「リトガー出身のクセして調子乗るな」 暢子は有給を使って3日休んだ。 ほぼ寝込んでいた。 このまま休んで、仕事を辞めてしまった方がいいかもしれない。 だって、秘書なんて自信ないもの。 なんで私なの。。 そのとき、前西弥生の「推薦しておいたから」の言葉が頭に浮かんだ。 弥生の推薦だけで異動が決まったという確証はない。 だが弥生のことを、ほんの少し恨んだ。 いいありがた迷惑だと思った。 混乱と茫然自失の数日を送ったあと、 暢子は気づいた。 杏菜に言われた「首にならないようにね」という言葉が、本質なのではないか?と。 仕事なのだ。 誰が相手でも、完璧な仕事をすればいいではないか、と。 せっかくのチャンスなのにもったいない。 何よりも暢子自身が変わりたいと、ずっと思っていた。 いつもと変わらない仕事、押し付けられる雑用…。 心のどこかに、もっと違う仕事がしたい!レベルアップしたい!という気持ちがあったような気がする。 一念発起した暢子は、秘書の仕事に関わる書籍を読み漁った。 まだ顔も見ない榎本専務だけど、 「安斎さん、助かったよ」って言われたい。 年下だからとか関係ない。 慣れてないけど、榎本専務第一で、頑張ればいいじゃないの。 何かが吹っ切れて、逆に活力が湧いてきた。 休んでいる間に、秘書の先輩である梨花に連絡をとってみたが…。 決算時期で忙しいらしく、誘いを断られることが多くなっていた。 それも暢子が落ち込んでいた一因だった。 森山が代わりに「梨花のやつ、いま仕事が大変らしいんだよね」と詫びてきた。 「家にいても、イライラしててさ」 話の内容から同棲していることを知り、 それ以上は聞きたくなく、「大丈夫!」と話をぶったぎる。 梨花の中ではもう、同期の暢子より彼氏の森山の方が大事なのだろう。 わかっていたことだけど、寂しかった。 でも大丈夫大丈夫…と言い聞かせるうちに、 総務部でのイジメらしきことも気にならなくなり、すれ違う度に、舌打ちされるのも慣れてきた。 第一、もう少しで異動になるのだ。 それまで我慢できる。 人一倍多くなった残業も毎日こなし、引き継ぎも漏れのないよう行った。 そしてついに、明日は4月1日。 異動の日を迎える…。 上司となる榎本専務とはじめて会うのだ。 どんな人だろう。 ドキドキして、布団の中で何回も寝返りをうつ。 どうか、間違いのないように。 あれ?初対面の挨拶はどうしたらいいんだっけ。 気になったら最後、灯りをつけて本を読んでしまう。 その日、暢子が寝たのは明け方の4時だった…。
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