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11月8日
クレープが食べたくなった。
どうしても食べたくなった。
どうしても食べたくなったのだけれど、僕は三十路の独り身のオッサンなので、おいそれと気軽にクレープ屋さんに行くわけにはいかない。行ってはならないわけではないのだろうけど、オッサン一人でクレープ屋さんの前に並ぶその残酷な光景と僕の食べたい衝動を天秤にかけると、どうしても食欲には限界がある。人はやはり理性によって生かされなければならない。
でも食べたい。とても食べたい。
大抵の甘いモノは冷蔵もしくは冷凍食品とかに上手いこと加工されてスーパーにも陳列されているのに、何故クレープは何処にも並んでいないのか。どうしてクレープはクレープ屋さんに行かねば売っていないのか。悪意しか感じない。そんなに僕を貶めたいのか。僕にはもう敵しかいない。
なのでもう作るしかない。
自炊なんて全然したこと無いけど何とかするしかない。小麦粉と卵と牛乳があれば何とかなるから何とかするしかない。実際、小麦粉と卵と牛乳を混ぜて焼いたら何とかなった。巻いたり掛けたりするオシャレな食材が何一つなかったので、もう面倒臭いし白く固まってた蜂蜜をスプーンでガリガリ砕いて上に振り掛けてやったら何かわりと神々しかった。
とりあえずコーヒーを淹れる。インスタントだけど気にしない。ドリップコーヒーもあったけどドリップしている時間が惜しい。コーヒーは主役でもなんでもないので黙ってさっさと淹れられろ。
クレープとコーヒーをテーブルに並べる。
なんと美しい……
クレープを食べる。
最高。
オッサンが何一つ負い目なく気軽にクレープ屋さんに行くことができる優しい世の中が早く来て欲しいと切に願う。
クレープを食べる。
幸せ。
誰もがそういう偏見だとか拘りを捨て去ればきっと戦争なんて起きないのに。もっと言えば皆がクレープを食べればきっと人類はもっと優しくなれると思う。
クレープを食べる。
たまんねぇ。
戦争だとか差別だとか意味がわからん。そんなことどうでもいいから早く皆クレープを食べろ。
最高の心地。もう誰が何をしても許せる。
一人ひとりが優しい気持ちを持って誰かを想ってあげれば、それだけで世界は数歩先へ進めるような気がする。誰かが困っているならば手を差し伸べ、手を差し伸べる事ができないならば、せめてその人を想って憐れもうと思う。きっとそれだけの意識でも、回り回っていずれ世の中は素敵な方向へ向かっていけると思うから。
そう思っていたら何か銀歯が取れた。
右の奥の銀歯が取れた。
わけがわからん。
なんでこんな柔らかいもの食べて歯が取れるのかもう意味がわからん。
ふざけんな。
歯医者やってねぇよ日曜だよ今日ふざけんなよ。
なんで歯医者は皆揃って日曜は休みやがるのか。
全然関係ないけどどうして床屋も揃って火曜に休むのか意味がわからん。
悪意しか感じない。
全てが僕を貶めようとしている。
敵しかいない。
世の中から戦争が無くならない理由がよくわかった。
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