10月の始めなのかな

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10月の始めなのかな

僕の職場には従業員食堂がある。 ありがたい。  とにかく田舎なので、ちょっと外で食べてくる、という手段も取りづらく、本当にありがたい。 1食300円の自己負担で対応してくれるその優しさにも感謝している。  従業員食堂は昼食と夕食とが用意されており、それぞれ本社が用意したメニューに従ってオバちゃんが1人で作ってくれている。昼食時は10数名分を用意しているのだから、結構大変なんだと思う。  オバちゃんは15時には帰ってしまうので夕食は作り置きにはなるのだが、電子レンジで温めれば美味しく頂けるし、大変助かっている。  なので夕食が必要な者は前日くらいまでに予約しておく必要がある。大抵の場合、夜勤従事者1人と業務の都合で帰宅が遅くなるであろう2~3名くらいが夕食を予約するのだが、日によっては夜勤者1名しか夕食を摂らない場合もあり、そんな時は本社が指定したメニューは無視され、昼食の残りが1名分だけ冷蔵庫に置かれていたりする。でも夜勤の場合は職場で昼食は摂らないので、そんなことは全く気にならない。  ある夜勤の日、夕方過ぎに出勤するとデスクにメモが残されていた。 『食材が何も無いので夕飯はアレで勘弁して。ごめんね』  夜間業務をあらかた終え、休憩を取りに従業員食堂へ行くと、冷蔵庫の中にレトルトカレーがパウチのまま1つ、ポコンと置かれていた。  レトルトカレー。  レトルトカレーに300円払っていることには若干の搾取感を感じたが、まぁ月末で色々大変なんだろうし、ちょっと面白かったのでまぁ構わない。  仕方がないので厨房のシンク横の無駄に大きな換気扇に向かって煙草を吸いながらレトルトカレーを湯煎し、ご飯を皿に盛ろうと電子ジャーを開いた。  米が無い。  ?  でも僕はそんなことでは慌てない。  厨房の奥の冷凍庫に、余ったご飯が冷凍になっていることを僕は知っている。  冷凍庫をあさる。  あさる。  奥まであさる。  全部あさる。  無い。  米が無い。  戻って冷蔵庫も確認する。  豆腐しか無い。  もう一度冷凍庫を見に行く。  パンすら無い。  ふざけんな。  今職場にいるのは僕一人。夜勤はつまるところ留守番なんだから外にも出られない。  どうやら詰んだらしい。  どうしようもないので温めたカレーをシチューみたいにズルズルすすって、冷蔵庫に唯一残されていた豆腐を一丁そのまま食ってやった。  翌朝、出勤してきたオバちゃんに豆腐を食べたことと米が無かったことを嫌味にならない程度に伝えると、笑いながら謝られた。絶対に許さない。  次の夜勤日、冷蔵庫を覗くとステーキが置いてあった。  よし……許す!  でも後から聞いたらその日は社員還元日か何かで昼食も全員ステーキだったらしいので、やっぱり許さない。  献立表を確認すると本来のその日の夕食は野菜炒めだった。  一定の優しさは感じた。
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