4~5月にかけて

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4~5月にかけて

 味噌をかけたい。  もうとにかく何でもいいから味噌をかけたい。  生まれ育った土地柄のせいだとは思うが、とにかく味噌をかけたくて堪らない。  基本的に何にでも味噌をかけて育ったので、味噌をかけない土地に長くいると定期的に発作が起こる。味噌をかけたい。なんなら舐めたい。  この土地でおでんを食べると味噌がついていない。意味がわからない。おでんにもトンカツにも湯豆腐にも味噌がかかっていない。わけがわからない。何故味噌をかけないのか意味がわからない。味噌をつけとけば大抵のものは旨いのに、何故かけないのか僕には意味がわからない。  とりあえず味噌をかける、という発想に何故至らないのか。その貧困な発想力はやがてこの国を滅ぼすぞ。  そのくせこの土地でも味噌汁には味噌を使うし味噌田楽にも味噌を使いやがる。味噌をかけないなら徹底して味噌を使うなよと思うのだが、よく考えたら味噌を使わない味噌汁って何なのかよくわからないのでそれはまぁ許す。  とにかく何かにつけて味噌をかけたいのだ僕は。  でも何にでも味噌をかけるかと言われれば、それは偏見だと思う。そういう目で見ないでほしい。  エビフライはタルタルソースかウスターソースだし、パンケーキだってメイプルシロップかバターで食べる。焼き肉はタレか塩だし、しゃぶしゃぶだってポン酢かゴマダレが美味しい。すき焼きは卵だ。  そう考えるとむしろ味噌をかけるもののほうが少ない気がしてきた。トンカツとかおでんとか豆腐とか、そのくらいな気がする。というかトンカツは別にトンカツソースでも旨いし、豆腐も醤油で充分だし、別にあえて味噌をかけなくてもいい気がする。  そもそも味噌をかけると全部同じ味になるし、別に要らないんじゃないか。  とりあえず味噌をかけとけ、というその貧困な発想は、やがてこの国を滅ぼす気がする。  つまり味噌など不要。  そう思い込ませて僕は今日も味噌を我慢するのだ。  でも誰が何と言おうと、おでんには味噌以外考えられない。
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