赤いコートの女

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 一人の男が夜の雪山を歩いていた。しんしんと降る雪の中、ザクッザクッと足音を立てながら慣れない雪道を歩いていた。短い間隔で吐かれる息は白い。  この男、会社の同僚に勧められた雪の絶景を見るために普段からあまり人通りが少ない展望台へと続く山道をわざわざ雪の日に歩いているのだ。  もうそろそろ目的地の半分かというところで男は一人の女が道の端で立っているのを目にした。彼女が来ている赤いコートは真っ白な雪景色の中で目が覚めるほど鮮やかだった。  一人で黙々と歩いている寂しさも相まって、男はその赤いコートの女に話しかけた。 「あの、こんなところに一人でどうしたんですか?」 「いえ……、あの……」  女は消え入るような声でそう言ったきり黙ってしまった。顔は長い髪で良く見えないが、肌は今降っている雪のように真っ白であった。 「あ! もしかしてあなたもこの先にあるっていう絶景を見に来たんじゃないですか!」  それしかないと男は思った。同僚はこの山道は普段から人通りが少ないと言っていた。雪の日にわざわざこの道を通るということは絶景目当てとしか考えられない。 「そうなんですよね!! 良かった~! 実は一人で登るのが寂しくて寂しくて! じゃあ、一緒に登りましょうよ!!」  そういうと、男はどんどん先へと歩いていく。 「どうしたんですか? 早く行きましょうよ!」  一歩も動かない女に気が付き、後ろを振り返って男は言う。 「もしかして、体調がわるかったりしますか?」  男が女の方へ歩み寄ろうとすると、女は首を振り、歩き始めた。
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