赤いコートの女

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 それから、男は少し歩くスピードを落とし、女と肩を並べて歩いていた。 「いや~、実は私最近この辺りに引っ越してきたばかりなんですよ! そしたら元々この辺りに住んでた同僚が雪の日の夜のこの先にある絶景をあまりにも勧めるもので、どんなものかと思って軽い気持ちで来たんですけど、寒いし寂しいしで本当に嫌になっちゃって! いや~、あなたと会えて本当に良かったです!!」  元々寂しがり屋な男は一人ではなくなったことでテンションが上がり女に訊かれてもいないことを一方的に喋っていた。それに対し、女からの反応はない。  男は自分が喋りたいことを喋り尽くしたので、女に何となく質問してみた。 「そういえば、なんであんなところに一人で立っていたんですか?」  今更ながら男は不思議に思った。登っている女を見つけたのではなく、ただ立っている女に声をかけたのだ。休憩していたのかもしれない、もしかしたら本当に体調が悪かったのかもしれないと思うと、男は今更ながら申し訳なく思った。  すると、女は話静かに始めた。 「私にはカレシがいたんです」  その声はとても透き通っているように男には思われた。 「そのカレシもこの辺りの人で……。この辺りのことを知らない私に冬になったらこの山の絶景を見せてあげるね……と約束してくれたんですけど……」 「けど……?」  男は先を促す。 「けど、カレシはその……、交通事故に遭ってしまって……、帰らぬ人に……」 「……。えっと……、なんかすみません……」 「いえ……」  一瞬の沈黙の後、女は言った。今にも溶けてしまいそうな儚い声で。 「だから……私だけでもと……。それで……それで……」  女の声は震えていた。男はそれ以上立ち入らなかった。
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