赤いコートの女

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 それから2人は何も言葉を交わさなかった。黙々と歩き続けた。男には自分の足音しか聞こえなかった。まるで雪がその他すべての音を奪っているようだった。 「あ! 見てください! あそこじゃないですか?」  男たちの前にはさびれた展望台があった。崖の側に建っている展望台。男が同僚に聞いていた場所だ。男は走っていく。 「早く早く!」  男は女の方を向き、大きく手を振った。女は少し速度を上げて展望台までやって来た。 「ほら! 見てくださいよ!!」  男たちの眼下には真っ白な雪に覆われた村があった。各家庭の窓からこぼれ出る温かい光がより景色を幻想的なものにしていた。  男は感動を分かち合おうと女の方を見た。女は聞こえるか聞こえないかくらいの声で「わぁ」という感嘆の声をあげていた。赤い唇から白い息が零れる。その様子に男は少し見惚れた。  すると、女は不意にこちらを振り向き、男に言った。 「あの……、今日は本当にありがとうございました。いくら感謝しても感謝しきれません」 「あ……、いえ……」  男は自分が見惚れていたことに気づかれたのかと思い、少し狼狽した。 「さよなら」  女は笑顔で言った。 「え?」  男が聞き返した瞬間、先ほどまでの雪とうって変わって崖の方から吹雪が吹き、展望台を襲った。その場にある何もかもを飲み込むように吹いたその吹雪は男の視界を奪った。  吹雪が止んだ後、男が目を開けると、そこにはもう女の姿は無かった。  男は来た道の方を振り返った。そこには男の足跡のみが刻まれていた。
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