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「どうだった? 絶景だったろ!」
「うん。絶景だったよ」
翌日、昼休みに会社の食堂で例の同僚に話しかけられた。
結局、あの女の行方は分からなかった。あれから、展望台の周辺を探したが女と再び会うことはなかった。吹雪で崖下に転落したのではないかとも思ったが、体が吹き飛ばされるほどの強さでもなかったし、そもそも、崖の方から吹いてきたからその可能性はない。一応、崖下を覗いたが女の姿は見当たらなかった。赤いコートを着ていたから居たらすぐに分かるはずだ。足跡のことは気がかりだったが吹雪の関係で一方の足跡が消えてしまったのだと解釈した。帰り道も辺りを見回しながら帰ったがいなかった。一本道だから迷うはずもない。先に帰ってしまったのだろうと男は考えた。
「で、何かなかったか?」
「何か?」
「いや、何もなかったならそれでいいんだけどよ」
「何だよ! 言ってくれよ!」
同僚は声のトーンを落として言う。
「実は出るんだよ」
「出るって……もしかして……」
男の頭には赤いコートの女が思い浮かぶ。
「ああ。出るんだ。熊が」
「いや! 熊かよ!! それすごい危ねぇじゃねぇかよ」
「冗談冗談。熊が出たのは5年も前の話だよ! しかも、その熊はしっかりと駆除されたよ。なんせ人を一人食い殺してるからな」
同僚は男の肩をバシバシ叩いて笑いながら言う。
「え……」
「確か、なぜか一人で山を歩いていた赤いコートを着た女が食われたはずだ。コートが赤いのか血で赤いのか分からないくらいだったらしいぜ」
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