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私へのいじめは、中学からはなかったのだ。私が勝手に闇深く堕ちていただけだったんだ。
「ごっ、ごめん」
「謝んな。ほら、せっかくだから料理食べよう」
「うん、そうだね」
私たちは、学食の何が美味しいだ、缶コーヒーはどのメーカーが美味しいとか、たわいもない話をして食事を楽しんだ。
そして会計を終え、店を出て駅に向かって歩いていると、木村君が話し掛けてきた。
「ところで、僕の名前、知ってる?」
「木村悠斗君でしょ」
「覚えてくれてたんだ」
「そりゃ忘れないよ。人生唯一、私に告白してくれた人だもん」
木村君は真っ赤になってる。
でも、その後の行動で、私は深い闇に落ちたけどね。あっ、またイライラしてきた。
「靴、どうかな?」
へっ、靴?
あっ、そういえば私、木村君に渡された靴履いたままだった。
「痛みとかどうかな」
あれ、来る時は痛くて仕方なかったのに。今は痛くない。
「痛く……ないかな」
「良かった。その靴、プレゼントさせてもらえないかな」
「くれるの?」
「うん。裕奈ちゃんのために作った裕奈ちゃんだけの靴だから」
不安そうに私を見ている木村君。
「よし、じゃあこの靴で五年生の時の事はチャラにしてあげよう」
私は笑顔でそう言った。
木村君真っ赤な顔をして私を真っ直ぐに見ていた。
「もう一回改めて言うね。裕奈ちゃん、僕はずっと君の事が好きなんだ。付き合ってもらえないかな」
小学三年生のあの日
プールサイドに残った私の足跡
真夏の日差しでも消せない、私の心の中に残った足跡
でも今日、
まる子というカボチャの馬車で、合コンという舞踏会に行き、木村君という王子様から、外反母趾用の私だけのガラスの靴をもらった。
そんな私のシンデレラストーリー。
「友達からね」
私は笑顔で答えた。
私の心の中の足跡は、今はもうどこにも見当たらない。
『プールサイドの足跡は、真夏の日差しでも消えない』
【了】
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