プールサイドの足跡は、真夏の日差しでも消えない

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 中学に上がり、高校に上がっても私は闇から這い上がれなかった。中学ではさすがにユーマと呼ぶ人はいなかったけれど、かなり濃く深いところまで落ちて、心の足跡はもう闇と同化しているようだ。  中学では足の甲のところのゴムを切られたり、高校では黒い布を糊で付けられたり、二十八センチと私には巨大な上履きとすり替えられていたりと、私の上履きは常にいたずらをされていた。闇から抜け出せる気もしなかった。  が、そんな私にも転機が訪れた。  大学に入り、実に十年振りの友達ができた。 「裕奈〜、お腹空いたぁ」 「裕奈〜、課題忘れた。写させて!」 「裕奈〜、また振られた〜」  大学では、いつも私の横にはまる子がいた。一年生の時、一人で一般教養の講義を受けていたら、講義の後に声を掛けてきてくれた。 "ねぇ、一人だと寂しいでしょ。友達になろうよ。私、山端(やまはた)まゆ子。でも、太ってるからまる子って呼ばれてるんだ"  まる子は、可愛らしい顔立ちに、白い肌で、背が高く横にも大きい。さながら、映画のベ○マッ○スのようだ。  まる子は本当に明るく、いつも元気だ。学科は違うけれど、そんなまる子とずっと一緒に行動していた影響で、少しずつ濃く深い私の闇にも光が差してきた気がしていた。 「私たち青春を謳歌できていない。何が足りないか分かる?彼氏よ、彼氏。合コンよ、合コンに行くわよ」  まる子のいきなりのこの一言で、私は生まれて初めての合コンに参加することになった。もちろん強制的にだ。 「まる子、私、男子と十年話してない。無理だよ」 「何言ってんの裕奈。あんた、顔可愛いんだから大丈夫よ。私はこの破壊力抜群の胸をアピールしていくわ」  そう言って、両手で胸を押し上げる。確かに大迫力だ。見てるだけでなぜか、お腹いっぱいになる。そして、ヘビー級の胸を凌ぐスーパーヘビー級のお腹。 「ねぇ、まる子は太っている事、コンプレックスじゃないの?」  私は無理。私は化け物の足、UMAと呼ばれた足、心に大きな闇色の足跡が残っている。すごく大きなコンプレックスだ。
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