プールサイドの足跡は、真夏の日差しでも消えない

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「あの、今日って四人じゃ……」  男性は俯きながら小さな声で何か答えている。 「ごめんなさい、聞こえなくて」  男性は、顔を赤くしながら、 「今日は二人なんです。僕と裕奈ちゃんだけなんです。すいません」  裕奈ちゃん?  私の名前を知ってるの?  そういえば、どことなく見覚えのある顔に感じる。 「あの、ちょっとお手洗いに行ってきます」  私は、まる子に電話をするために一旦席を離れた。 「もしもし、まる子。どういう事」 「ごめんね、騙したみたくなっちゃって。前に大学で木村(きむら)君に急に、佐々木裕奈さんと仲が良いですよね、って声掛けられたのよ」  まる子は悪びれた様子もなく、私に説明をしてくれている。 「で、木村君が一度でいいから、裕奈と二人で話せる場を作って欲しいって頼まれてさ。伝えたい事があるんだって。害がありそうな感じもなかったし、宜しくね」  なるほど、それで今日の茶番になった訳か。何が宜しくねだ。今日の服に合わせた、私の足にあっていない靴のせいで足がかなり痛い。その伝えたい事とやらを聞いたら、とっとと帰ろう。  そう決心して、席に戻った。 「裕奈ちゃん、僕のことわかる?」 「木村君でしょ。さっき、まる子から聞いた」  男性はあからさまに、がっかりした表情になった。あれ、木村君じゃなかったっけ。 「それで私に伝えたい事って何ですか?ちょっと私、足が痛くて用件聞いたら早くに帰りたいんですけれど」  そういった瞬間に男性はビックリした顔になった。 「足……痛いの。ごめんね。ああ、この靴だと」  男性は自分の椅子の横に置いていた紙袋から、箱を取り出した。
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