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「ありがとうございましたー、またお越しください」 「自分でできっか」 「子ども扱いしないでください」 バイトの声に送り出された直後、コンビニの駐車場で待ちきれないとばかり開封するみはな。 スイカの形をした棒アイスをしあわせそうにひとなめしては、ひんやりと舌に広がる清涼な甘さにうっとりする。 一方大志が選んだのは手頃な価格で長年愛されている、ソーダ味の棒アイスだ。 袋を破ってアイスを咥えれば、みはながじっとこちらを見ている。 「何?欲しいの」 「……ソーダってぴりぴりしません?」 「しねえよ。うまい。冷やして固めると炭酸ぬけちまうんだよ」 「そうなんですか……」 みはながチラチラと意味深な視線をよこす。大志は肩を竦め、せいぜい意地悪く笑ってやる。 「食いしん坊万歳」 「違います」 「二本は食べきれねーだろ、昼飯入んなくなる」 「わかってますけど……」 みはながスイカバーをちびちびちなめてぼやく。根負けしたのは大志の方だ。おもむろに口からアイスを抜き、みはなの口元へ近付ける。 「一口だけな」 「……いいんです?」 「悦巳にゃナイショだぜ、うるせーから」 みはなの顔がぱっと輝く。わかりやすい。片手にスイカバーを預けたまま、大志が持った棒アイスをしゃくりと齧り、ほっぺたが落ちそうな顔をする。 「うめえ?」 「キーンとします」 「かき氷とおんなじ感想だな。まあ成分はおんなじか」 「大志さんもどうぞ」 お返しにまだ半分残っているスイカバーをさしむけ、あーんと大口開く。 「俺はいいよ」 「大人だからって遠慮しないでください、みはなの気がすみません」 「頑固は父親譲りかよ」 「あーん」 くり返しみはなに促され、しぶしぶ赤い果肉部分をかじりとる。 チョコチップの粒の歯ごたえと甘酸っぱさが溶け混ざり、ひんやり咽喉を滑り落ちていく。 「おいしいですか?」 「ん。イケる」 「よかった」 みはながにっこり微笑み、片手にスイカバー、片手に大志で帰り道を辿りだす。これではどちらが子守りされているかわからない。 蝉の鳴き声がうるさく響くアスファルト舗装の道を歩きながら、懐かしさに駆られて口を開く。 「ガキの頃、悦巳にもおんなしことされたっけ」 「えっちゃんにですか」 眩げに目を細め、傍らの大志を仰ぐみはな。片手のアイスは炎天下で溶け始めている。 大志は懐かしそうに頬をゆるめ、思い出話をする。 「通学路に駄菓子屋があったんだ。そこでアイスを買うと決まって……まあアイツの場合はただ意地汚ェだけかもしんねえけど、すーぐ人のもん欲しがるんだ。なあ一生のお願い大志、一口でいいからなっなっ?」 おどけて物まねすれば、みはなが「そっくりです」と褒める。 「血が繋がらくなくても家族って似るもんなのかな。へんなの」 「あ、あ、あ」 「どうした」 「アイスが溶けちゃいます」 「言わんこっちゃない、早く食えって」 あきれ返る大志をよそに、みはなはハムスターさながら一生懸命残りを頬張りだす。しかし急いだせいで手が滑り、溶け残りのアイスが棒から滑り落ちる。 「あっ!」 叫んだ時には手遅れで、棒からずり落ちて垂直落下したアイスが地面で潰れる。 「あーあ、なにやってんだ」 「落としたんじゃありません。とってもおいしかったから蟻さんたちに分けてあげたんです。大志さんに教えてあげます、蟻さんたちはおうちで待ってる女王様や腹ぺこ赤ちゃんのためにたくさんごはんを持って帰らなきゃいけないんです」 涙ぐんで立ち尽くすみはな。視線の先、地面に落ちて溶け広がるアイスに蟻の行列が群がる。 今にも表面張力の限界をこえ、完璧なアーモンド形の目からすべらかな頬へ、大粒の涙が零れ落ちそうだ。 「そか。いい子だな」 「……はい」 意地を張る少女の傍らにしゃがみこみ、言葉少なくその頭をなでる大志。みはなは泣くのを堪えて顎を引き、ほんのかすかに頷く。 「っと、忘れてた。悦巳に買い物頼まれてたんだっけ」 コンビニで思い出さなかったのは失態だ。が、マンションに帰る途中に商店街がある。 「寄ってもいいか」 「いいですよ。みはな屋根があるお店好きです」 アイスのかけらを巣に運ぶ蟻の行列にバイバイと手を振り、大志と手を繋いで方向転換。
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