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「元々あった別荘ではないんですか?」
「ああ」
別荘は煙突付きの煉瓦作りの建物で、木製の窓、庭には子供用の古いブランコと砂場。
それから、別荘のそばには大きな桜の木があった。
自然に私の目から涙がこぼれた――
「懐かしい気がします……」
「そうか」
「瑞生さん。もしかして、この別荘は……」
「ここは美桜の母親が所有していたものだ。美桜が継いだ財産の中に含まれていた」
「売却しないでくれたんですね」
瑞生さんは悪い顔をし、私の顎を掴む。
その顔は『宮ノ入』の瑞生さんだった。
「すべて取り返すと約束したからな」
唇に軽いキスをして、瑞生さんは私の手を引いた。
「中へ入ろう」
――やっぱり懐かしい。
入った瞬間、おぼろげな思い出が甦る。
居間の暖炉前で座る母の姿。
病弱な人で、活動的ではなかったけど、幼い私のそばにいてくれた。
忘れていたのに、ここにいると、母を思い出すことができた。
「私……。この家にいたことがあったかもしれません……」
「近所の別荘の所有者で、美桜たちのことを覚えている人もいたぞ」
「やっぱり……。母とここで過ごしていたんですね」
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