1 妹にきたお見合い話

6/13
前へ
/230ページ
次へ
 自宅は宮ノ入グループ本社から、乗り換えなしの電車一本で帰れる距離。  私はこんな地味だけど、私の家は高台の高級住宅地にあった。  宮ノ入グループほど巨大な会社ではないけれど、沖重(おきしげ)グループという会社経営をしていて、世間ではそこそこ名の知れた企業だ。 「ただいま帰りました」  私が家へ入るには、表からではなく、裏口からと決められている。  それなのに、継母は私が帰ったと知り、わざわざ裏口までやってきて、いつもと変わったところがないか、チェックする。 「あら、いつもより遅いじゃない」  スーパーに寄ってきた時間分、遅くなっただけなのに、それを咎めるような口調で言われる。  私のレジ袋に卵が入っているのを見て、理由がわかったらしく、それ以上は聞かなかった。 「すぐに夕食を作りますね」 「梨沙が帰る前に済ませてよ」  継母は新しいネイルを満足そうに眺め、私に言った。  家族の会話ではなく、雇用主と家政婦。  私が卵を冷蔵庫へ片付けていると、継母はリビングへ戻り、ソファーにゆったり腰かけて雑誌を開き、テレビをつけ、私からすっかり興味を失っていた。 「……よかった」
/230ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9293人が本棚に入れています
本棚に追加