俺のFANTASISTA

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俺のFANTASISTA

 さて、どうしたものか。  ダンジョンの最下層に相応しい薄暗い神殿風のステージの中、俺は右手に握った剣を持ち直した。フィールドにぐるりと(そび)え立つ巨大な柱は老朽化し、今にも崩れ落ちそうだ。  俺は柱を背に中央にある台座へと視線を移す。  モンスターは3体。奥にアンデッドが2体と、手前にオーガキングが1体。あいつらがこのダンジョンのラスボスらしい。  アンデッドは回復魔法が使えるため、2体同時に倒さなくてはならない。が、アンデッドを倒そうと台座へ近づけば、オーガキングからの攻撃は避けきれない。  逆にオーガキングを最初に攻撃すればアンデッドの回復魔法で無効化され、3体から同時攻撃をくらう可能性が高い。  このVRMMOで冒険者は魔法を使うことが出来ない。よって、モンスターを倒すには、必ずあの台座まで行かなければならないのだ。  台座までたどり着き、オーガキングの一撃を避け、さらにモンスター3体を同時に封じこめなければダンジョン攻略ができない。  さすが…と言いたいところではあるが。  この状況、どう打破すべきか。 「ワタル、まかせて!」  俺が逡巡していると、隣の柱に身を隠していたアズサが飛び出し、台座へと続く細道を駆けあがる。  アズサの存在に気がついたオーガキングが、すかさず棍棒を振りあげ、彼女めがけて叩きおろした。  地響きが鳴り、天井から大理石の破片が降り注ぐ。一撃でもあたれば、即ゲームアウトだろう。  しかしアズサはほんの少し体をひねっただけで棍棒を避け、オーガキングの腕に飛び乗ると、そこを足場に、奥に隠れていたアンデッド2体へと飛びかかる。  彼女の両手には〈死者の肉〉が握られていた。  これは冒険者が使えば微量の体力を回復できるアイテムだが、もしアンデッドに与えてしまうと… 「馬鹿、やめろ!」  ブ―――ン。  フィールド全体に響き渡る警告アラームとともに、目の前が赤く明滅する。 《警告。アンデッドがアンデッドキングに進化します》  機械的な音声が、最悪の事態を告げる。  台座の上にいたアンデッドは動きを止め、金色の魔法陣に包まれる。進化エフェクトが開始されたのだ。  彼女はオーガキングへ振り向くと、腰に下げた両鞘から銀色に輝く2本の剣を取りだした。  俺はこの時、やっとアズサの行動に合点がいった。  アンデッドを進化させたのは進化エフェクトを起動させ、すべての動きを止めるため。  そして。  体制を低くし力強く地面を蹴ると、一気にオーガキングの胸元へ飛び込んだ。 《ダンジョンクリア》  目の前に青い文字が浮かび上がる。  顔をあげると、瞬きをする間もなくボスを仕留めたアズサが、俺に振り返って誇らしげにピースしていた。 「ワタルー!ダンジョンクリアだってー!」  俺は彼女の呑気な笑顔を見つめながら確信した。 「アズサ、お前やっぱファンタジスタの素質があるよ」 「ファンタジスタ?なにそれ?」 「俺も最近知った言葉なんだけど…」
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