3人が本棚に入れています
本棚に追加
彼女との出会い
俺がアズサと出会ったのは、3か月ほど前のことだった。
プロゲーマーを目指している俺は、eスポーツ向けに開発された最新のVRMMOソード・クロニクルの中でも上位ランカーとして活躍していた。
ゲームは俺にとって、とても簡単な物だった。地道にコツコツ努力をすれば、すぐに結果がだせる。どんな人間にだって平等な階段を、ただ地道にコツコツと。それだけで良かった。その先には必ず、自由がある。
俺はゲームを心の底から愛していた。
そんな俺がある日、1人で中級者向けのダンジョンにアイテム採取に潜ろうとしたところ、
「いやーー!!」
近くで女の子の悲鳴が聞こえた。
誰かがPKにでもあっているのかと思って駆けつけてみると、明らかに初期装備のままの女の子がレベル1のスライムを前に泣き叫んでいたのだ。
なんでこんな所に初心者が?
しかし、初期装備と言えど、レベル1のスライムくらい簡単に倒せるのに…
あまりの情けなさに呆れたが、見捨てるわけにもいかない。
俺は、女の子に近づくと、足でスライムを蹴って追い払った。
「えっと、大丈夫?」
泣き止まない女の子に、一応、声をかける。
彼女はしゃくりあげながら、弱々しい声で呟いた。
「あんな凶悪な化け物がでるなんて、怖すぎますぅ…」
スライムが凶悪って…
「いや、別にスライムは何もしてこないよ?」
「でも!私のことじっと見て…!!」
それは仲間になりたそうにこちらを見ていただけじゃないだろうか?
このゲームの初心者というより、ゲーム自体ほぼ知らないのか?
なんでそんな人間が…
俺が疑問に思っていると、彼女からの熱い視線を感じた。
「なに?」
「私、人と話すの久しぶりです…」
引きこもりかよ!
って俺もほとんど外に出ないから似たようなもんだけど…
「は、はあ。そうなんだ」
「さっきは助けていただいてありがとうございました。私、アズサっていいます。今日は親に無理やりこのゲームをやらされて恐ろしい目にあいました…もう2度とこんなゲームはやりません」
ソード・クロニクルって周辺機器まで集めると、かなり高額なんだけどな…俺もお年玉貯金の前借してまで購入したのに。引きこもりの娘のためにそこまでする親って…過保護過ぎ。
でも。
「さっきは怖い思いをしたかもしれないけど、ゲームってのは凄く楽しい世界なんだぞ!」
プロゲーマーを目指す俺の大好きなゲームが、怖い物と認識されるのが嫌だった。
「俺の名前はワタル。アズサ、君にこの世界の素晴らしさを教えたい」
俺はそれから、彼女――アズサにゲームの面白さを理解してもらうべく、共に行動するようになった。
最初のコメントを投稿しよう!