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目の当たりにした才能
アズサは俺と行動するようになって、すぐゲームに夢中になった。それだけでなく、トップランカーに名を連ねる俺でさえも驚くほどの早さで成長していった。
彼女は頭がよく、教えたことはすぐに覚える。その上、俺でさえも思いつかないようなアイディアを駆使して、いくつものダンジョンを攻略していった。
ゲームの世界は、努力が全て。
長年の間そう考えていた俺に、ゲームにも才能があるのだと思わせた。
それくらい彼女のプレーは素晴らしく、観る者の心を強く揺さぶった。
プレイヤーとしては新参者だったけれど、彼女の噂はすぐに広がり、討伐イベントでは彼女目当ての観客が押し寄せることも珍しくない。
すぐにアズサはソード・クロニクル内でのスーパースターとなった。
また俺たちは、ゲームを楽しむ以外にも、よく他愛もない会話をした。
アズサは引きこもりのわりにお喋りが好きで、リアルのことを色々と俺に教えてくれた。
本名は木下梓。俺の1個下で16歳。小中共に通っておらず、部屋からも出ない根っからの引きこもり。友達ゼロ。そのくせ窓から見える景色をよく会話にあげる。
果てには自分の住んでる場所まで喋り始めるので、ストップをかけたほどだ。
どうも俺の家から電車で30分くらいの場所に住んでるらしい。だからって、リアルで会うことなんてないけど。
アズサは俺に対する質問も多かった。学校はどんな風だとか、どんなところに行ったことがあるか?とか。
俺は通信制のオンライン学校に通っていたから学校の様子なんてよくわからなかった。適当に、漫画で見た内容を話したりしたが、楽しそうに聞いていた。
外出することもほぼないので、子供のころ親につれていかれた場所とか、そんな遠い昔の話ばかりしていた。でもやっぱり、アズサは俺のどんな話でも楽しそうに聞くのだった。
ちょっと抜けてるけど、頭がよく、いつだって素晴らしいプレーで俺の心を揺さぶってくれる。
そんなアズサに俺は嫉妬心よりも、好意を抱いていた。
ある日、突然アズサは思いつめた表情で俺に言った。
リアルで会いたい、と。
俺は彼女に、少し考えさせて欲しいと伝えて、その日はゲームからログアウトした。
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