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Prologue
空が夕暮れ時を告げる頃、仕事を終え、会社を出ると、周りのビルが夕暮れに染まっていた。
…あぁ、良い空だな。
そう思いながら、しばらく歩く。
2ブロックほど歩くと、さまざまな会社が同居しているオフィスビルに入っていった。
1階が大きなホールになっていて、パネルディスカッションが行われている。
もう終わりに近づいているらしく、中からスタッフらしい人が数人出てきて、退場者の邪魔にならないようドアのひとつを開け放つ。
聴講者が戻ってきたような顔をして、開いたドアからすっと中に入ってみた。
前方のスクリーンには『今後、取り組んでいきたいこと』という文字と資料が映し出され、左手にはパネリストらしき3人の男性、スクリーンの右手には小柄な女性がマイクを持って話している。
会はまとめの時間に入っていて、パネリストが一人ひとり締めのコメントをしていた。
話を促す女性の声は落ち着いたアルトで、裏方に徹しながらも、必要に応じてパネリストに質問を投げかけたりしている。
「それでは、これで本日のパネルディスカッションを終了させていただきます」
女性がそういうと、100人くらいの聴衆から一斉に拍手が起こった。
席を立って帰って行く人波に乗って廊下に出ると、しばらく壁際に立ち止まって、出て行く人たちをやり過ごした。
ほぼ人が出払った頃を見計らって、廊下をステージ側の扉へと向かう。
先ほどまでマイクを握っていた女性が、スタッフの挨拶を受けながら出てきた。
左肩に大きめのバッグを掛け、左手にはストールを持っている。
隣を歩く男性が「最後、上手にまとめていただいて、助かりました」と話している。
もう一人が「お帰りは電車ですか? お送りしましょうか?」と言っているところへ近づいていく。
彼女がこちらを見て、僕に気がついた。
笑顔を見せて近づいてくる。
左右にいた男性が僕のことを、彼女に挨拶に来た聴講者の一人だと思ったらしく、立ち止まる。
「来てたんだ」
「ううん、さっき仕事終わったから。迎えに来た」
「そう、ありがと」
そう言って、素直に嬉しそうな顔をする。
重そうなバッグに手を伸ばし、引き取ってやる。
そうしておいて絢さんは、関係者らしき後ろの二人を振り返ると
「あ、夫です」
そういって僕を簡単に紹介した。
「では、今日はこれで失礼しますね。また、ご連絡させていただきます」
彼女はそういって、丁寧に頭を下げると、僕の横に立って歩き出した。
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