誕生日プレゼント

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半透明の玄関ドアから、光が漏れている。 僕は手前で立ち止まり、なんと言って入っていこう、と考えた。 これで入っていったら、必ず連絡してから来る、という約束を破ることになる。 もし連絡しておいても、多分スルーされるんだから、どうしようもないけど。 それに僕が、オフィスに行くよ、とメッセージしたら、多分彼女はすぐ帰ってしまうだろう。 すると、ドアに影が差して、パチパチと電気を消す音がし、扉が開いた。 彼女は廊下の照明に照らされた僕を見ると、あっという顔をして、オフィスの中へ戻った。 僕はとっさに扉が閉まらないように手で押さえ、中に入っていった。 「突然来ないでって、言ってあったよね」 背中を向けたまま、彼女は言う。 「聞きたいことがあるんだ」 廊下の照明が、ブラインドの隙間から入り込んでいて、窓からもまだ薄い夕方の陽射しが差し込んでいる。 彼女の肩に手を掛けて、こちらを向かせる。 でも彼女は俯いていて、僕の顔を見ようとしない。 「絢さんは、僕のことをどう思っているの?」 答えはなかった。 「絢さんは恋人をつくる気がなくて、僕には早く他の人を見つけろ、と言う。  でも、あなたは僕をどう思っているのか、一度も聞かせてくれたことがなかったでしょ?」 「…どうとも思っていない。ただ弟みたいに思っていただけ」 「じゃあ、もう2度と会いたくないわけ? こんなにまでして僕を避ける理由は何?」 「会うと面倒なことになりそうだから」 「面倒なこととは?」 「こういうこと」 彼女はそう言って、強い目で僕を見た。 「もう来ないで」 僕は、彼女の両肩に掛けていた手を降ろした。 「分かった」 そう言うと、彼女に背を向けて歩き出す。玄関扉を開けて外に出た。 出ては来たものの、どうしていいのか分からない。このままにしたくない。 未練がましく、扉の横の壁にもたれて、どうしたらいいか考える。 彼女は警戒しているのか、出てくる様子もなかった。 しばらくして、僕はあることに気づき、意を決してそっと扉を開けた。
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