デート…?

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デート…?

次の土曜日、僕は9時半頃に彼女のマンションの駐車場に着いた。 マンションのエントランスで待っていたらしい彼女が、僕の車が入ってきたのに気づいて、建物から出てきた。 僕は最初、それが本当に絢さんか分からなかった。 いつもスーツか、それに近い大人っぽい格好ばかり見ていたから、全く違う感じの、カジュアルな格好をした女性が、彼女だとは思えなかったのだ。 その人が、迷うことなく僕の車に近づいてきたので、あぁ、絢さんなんだ、と思ったくらい。 深緑のざっくりとしたカーディガンの下は、シルバーのストライプが入った白のカットソー、下はスキニーのジーンズ、足下はスニーカー。 学生が使うようなコットンのバッグを斜めがけにして、つばのある帽子を手にしている。 「おはよう。迎えに来てくれてありがとう」 ドアを開けてそういうと、助手席に乗り込んでくる。 「おはよう、どこに行けばいい?」 彼女が指示を出し、車は町から離れて山の方へ向かって行く。 30分ほど走ると、目的地に着いた。 彼女は『お城』と言ったけど、本当は城址公園で、城の建物は残ってない。 崖の上にぐるりと塀で囲まれた、お城の跡地だ。 広い城址の一部に、当時の城主が持っていた宝物を展示する博物館がある。 持ち主が城主の末裔で、今でも宝物が私物のため、展示品が年に数回入れ替わるようだ。 駐車場に車を停めると、彼女は僕を振り返り、先を歩いて行く。 博物館の入り口で、僕の分まで入場券を買って、渡してくれる。 まだ開館してすぐの時間なので、来館者はそれほど多くない。 今回の展示品は、刀や兜から、日常使っていたさまざまな食器、文箱などだ。 どれも蒔絵が入っていたり、螺鈿の細工が施されていたりする美しいものだった。 彼女はガラスケースの中を熱心に覗き込んだり、壁に掛けられた絵図を解説と見比べたりして、じっくり見て回っていた。 僕も、こういうものを見るのは嫌いじゃないな、と改めて感じ、自分のペースで興味のあるものを中心に見て歩いた。 つかず離れずしながら巡回コースを見終わると、彼女はショップに立ち寄った。 勝手知ったる様子で、絵はがきのコーナーへと行き、今回の特別展の宝物から、数枚を選んでレジへと向かう。 僕は図録をパラパラと捲ってみたけど、今回は買うのはやめておいた。 外へ出ていくと陽が高くなっていて、結構な陽射しがある。 「朝ご飯、何時頃食べた?」
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