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高校時代は写真部だった。
ちょっといいカメラをバイトして買って、オートでない写真の撮り方を練習したものだ。
写真を撮らなくなったのは、被写体を探すのが面倒になったからだ。
学生の時は、友達を撮影して楽しんでたけど、社会人になると、そういう関係がなくなった。
まあ頑張って、社員旅行に行くときくらいしかカメラの出番がなくなり、そういうときも重いカメラを持ち歩くのが面倒になって、どこかにしまい込んである。
…もしこの先も、絢さんとこうやって出かけることができるなら、今どきのカメラを買ってもいいな。
そんなふうに思いながら、他の人があまり入らない、良いアングルができるのを待って、シャッターボタンを押した。
櫓は城址の端に建っていて、城のあったときと同じ状況で再築されたものだ。
彼女は折れ曲がった階段を、ゆっくりと登っていく。
登り切ると、青空が拓けた。
柵のところまで出て行くと、眼下に町が広がっているのが見えた。
彼女は柵に寄りかかり、それを眺めている。
僕も横に立って、彼女の住む町を眺めた。
「休みの日は、いつもこんな感じ?」
「そうね、こうやって出てくる用事を作らないと、うちに閉じこもっちゃうから」
「うちにいるときは、どうしてるの?」
「ひと通り、洗濯や掃除をしたら、あとはのんびりしてるかな。
今、ネットでいろいろサービスがあるでしょ? それで、動画見たり、音楽聴いたり」
そう言うと、彼女はなぜかふふっと笑った。
「千紘くんて、好きな韓国ドラマに出てくる俳優さんに似てるの」
「そうなの? どんな人?」
彼女はスマホを取り出し、操作すると画面を見せてくれた。
「そう言われれば似てるかも。髪型とか目の辺りが」
「こうやって実際に見比べると、そんなに似てないかもだけど、雰囲気とか、佇まいとか、そのドラマに出てくる役にすごく似てる」
「そうなんだ」
「最初に会ったとき、あ、似てる、と思った。
だから気をつけようと思ってたのに…」
どういうこと?と目で聞くと、彼女は柵に背中を預けて、空を仰いだ。
「好みの顔だったってこと。最初から」
あ~、言っちゃった、って彼女は言って、少し笑った。
「でも、絢さんがそういうの見てるって、ちょっと意外かも」
僕は照れ隠しにそう言った。
「現実世界に夢がないからね。もう…」
今度はちょっと寂し気な口調になった。
「見てみたいな、それ。なんていうやつ?」
気持ちをそらせるようにそう聞くと、「うちにあるよ」と言う。
「DVDとかでしょ? うち古いテレビしかないんだ。あとはスマホでだいたいいけるから」
そっか、と彼女は言った。
同じように並んで寄りかかり、空を見上げる。
「今日のが、絢さんの素の感じなの?」
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