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ドラマの内容は、離婚して実家に戻ってきた35歳の女性が、家庭でも職場でもいろんなことがあって鬱屈している時に、親友の弟が転勤になって、海外から帰ってくる。
顔なじみだった二人は、職場のビルが同じだったこともあって、関係を深めていく、みたいなストーリー。
最初、彼女のことを「姉さん」と呼んでいた彼も、本気になると行動が早い。
周りが二人の関係を知らずに、再婚を勧める様子を見て、苛立っている感じが、僕にはよく分かった。
僕はコーヒーをもらってのんびり見てたけど、絢さんは落ち着いて隣に座ってるということがなく、洗濯物を取り込んだり、どこかを掃除したりしてた。
「次はまたにして、取りあえずご飯食べに行こうよ。それで今日は解散ね」
一本目が終わったとき、彼女はそう言った。
気づくと、もう外は暗くなっていて、時計を見るともう夕飯時だった。
「分かった。ありがと」
そう言って、帰る支度をする。
「このドラマだけど」
「なあに?」
「最後はハッピーエンド?」
「そうね、多分。でも間にいろいろあり過ぎて、結構見てて辛いよ」
「そうなんだ」
それで僕らは家を出たのだけど、それ以来、お互いが休みの日には会えるようになった。
僕はひとりの時間に、いろんな動画サイトを駆使して、そのドラマのだいたいのストーリーを見た。
まあ、お国柄もあるから、僕らの関係に当てはまらないところも多いけど、自分の心に素直に行動する彼と、いろんなことに捕らわれがちな年上の彼女の関係は、似てるところも多かった。
月に何度かは会っていたけど、なかなか恋人という感じになれなかった僕らの関係が変ったのは、それからひと月ほど経ってからだ。
本社で毎年恒例の研修があって、ほぼ一週間、地元を離れていた僕は、帰ってきた日の夜に、絢さんをオフィスに引きとめておいて、夕飯を一緒に食べに行った。
ショッピングビル屋上のレストラン街にあって、比較的安価なのに美味しい和食屋さんに入り、テーブルを挟んでいろいろ語り合っていると、スマホの通知音が鳴った。
何だろう、とチラッと見ると、さっきまで研修先で一緒だった同期からだ。
僕はアプリを開いて、ちょっとドキッとした。
それでさりげなく音を消して、ポケットに入れる。
何食わぬ顔をしたつもりだけど、絢さんは何かあったな、と思ったかもしれない。
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