彼女の過去

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落ち着いた頃に聞いた話だけど、その日のプレゼンは、働く人の組合で作っている組織で、その組織との顧問契約が取れるかどうか、がかかっていた。 そこで契約ができると、所属する複数の組織と一度に接点ができる。 一社ごとに営業をして歩くより効率的で、知名度も上がるし、何よりその組織に認められた人、というお墨付きももらえる。 大きな組織なので、契約先は二社となっていて、一社は以前から契約が続いていたらしい。 残りの枠をかけて争っていたわけだけど、すでに契約していたところは彼女が前に勤めていた会社で。 どうやらそこが、個人事業主ではこの仕事は手に余る、と言ったらしい。 個人で応募していたのは絢さんだけだったから、自分は排除された、と感じた、と。 その上、以前から知り合いだった内部の人が、実は、と…、 その既存の一社が、絢さんとはやりたくない、だから個人事業主ではダメ、と言い訳したのだと。 気を付けた方がいいよ、と耳打ちしてくれたそうだ。 結局決まったのは、このために会社組織にしたような、後進の小さな会社だった。 それに、元の会社の担当は、彼女と訳ありだった人みたいだ。 「私は全部を手放して辞めたのに、あの人は私との関わりを全部、断ち切ろうとする。  なんで私だけがこんな思いをしなきゃならないの?」と泣いていた。 もう、この業界を辞めたい、とまで言った。 「でも、この仕事好きだし、他にできる仕事もないし、どうしたらいいのか分からない」 「大丈夫、僕がいるから。どうにでもなる」 「でも、誰かに寄りかかって生きるのは嫌なの。それに、私は千紘くんにそこまでしてもらえるような女じゃない」 しばらくの間、彼女はそんなことばかり言っていた。 結局彼女は、その後3日は何もせず家に閉じこもっていて、他の仕事があったから仕方なく、4日目に仕事に復帰した。 復帰してしまえば、日々に追われるから、だんだん彼女らしさを取り戻していったけど、その頃一気に数キロ痩せた。 僕は、せっせと食べ物を運んでいって、一緒にいるようにした。 そんなことがあって、僕と彼女との距離は一気に縮まった。 彼女にとっては、辛い出来事だったろうから、何となく不本意だったけど、取りあえず、一番近くにいられる。 そんな時を経て、彼女もやっと、お互いにお互いが大切な人なんだと認めてくれたようだった。
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